酔っぱらいの戯言

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酔っぱらいの戯言

「ねぇ、いっそのこと結婚しちゃおうか」 私が酔った勢いで冗談混じりに発したその一言に、彼は切れ長な目を一瞬見開いたあと、唇の左下にあるホクロが印象的な口元を歪め、声をあげておかしそうに笑った。 そんなにウケるとは思わなかったから、この人は笑いのツボが浅い人なのかなとか、酔うとくだらない冗談もいつもの10倍くらい面白く感じるのかなと考える。 まぁたしかに、わずか1時間ほど前に初めて会った相手からこんなことを本気で言われるなんて、誰も思わないだろう。 私だってもちろん本気で言ったわけではない。 話の流れで、ただなんとなく言ってみただけなのだ。 「あんた、なかなか面白いこと言うね」 彼は笑いすぎて目元にうっすらと浮かんだ涙を指先で拭いながら、笑いをこらえてそう言った。 「そんなに面白かったの?」 「今年イチ……いや、もっとか。ここ最近こんなに笑ったことなかったわ」 私のくだらない冗談の一言でそこまで楽しんでもらえたなら、なんとなくいいことをしたみたいで気持ちがいい。 「喜んでもらえて良かったよ」 いい気分でグラスに残っていたハイボールを飲み干して、店の壁に掛けられた時計を見る。 時計の針はいつの間にか12時を回ろうとしていた。
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