10589人が本棚に入れています
本棚に追加
/991ページ
「じゃあ……私はそろそろ帰ろうかな」
私がバッグを持って立ち上がろうとすると、彼はその手を掴んで私を引き留めた。
まさか飲み代を踏み倒そうとしていると思われたのかな?
自分の飲み代くらいは払うつもりでいるのに。
「心配しなくても自分の代金くらい払って帰るよ?」
「そんなこと考えてないって。せっかくだからもう一軒行かない?俺、マジであんたととことん飲みたい気分」
そんなことを言われても、もうすぐ終電の時間だ。
明日は土曜で仕事は休みだから付き合ってあげてもいいけど、給料日前なのでもう一軒の飲み代と帰りのタクシー代を払うのは痛い。
「あー……私もそうしたいのはやまやまなんだけど、もうすぐ終電の時間だし……。私、ここの飲み代払うとあんまり手持ちがないからタクシーにも乗れないし、始発まで帰れなくなっちゃうんだよね」
やんわりと断ったつもりなのに、彼はまたおかしそうに笑いながら私の背中をバシバシ叩いた。
「なんだ、それなら心配しなくていいよ、俺が全部払うから」
帰りの足とお金の心配さえなければなんの問題もない。
じつは私も、もう少し飲みたいと思っていたのだ。
最初のコメントを投稿しよう!