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私のことなんか本当はなんとも思っていないのに、意味もなく触れないで欲しい。
顔に添えられた安藤部長の手を両手で振り払った。
「お願いがあるんですが……離婚の条件をひとつ付け加えてください」
「離婚の条件?」
「どちらかに別の相手ができたら、離婚してください」
「……別の相手って……」
沸騰したやかんがグラグラと音をたて始めたのでコンロの火を止めると、一瞬部屋の中が静まり返った。
私は安藤部長の方は見ずに、急須にお湯を注ぐ。
「特別な異性のことです。恋人とか、好きな人とか……セフレとか……」
コンロの上にやかんを戻すと、安藤部長はまた私の肩をつかんで、自分の方に私の体を向ける。
「一昨日の夜はそういう相手と一緒にいたのか?」
「安藤部長ほどではありませんが、私にだって誘ってくれる相手くらいいますよ」
本当は優花と食事をしただけだし、特別な相手なんかいないのに、私だけが騙されて縛り付けられるなんて腑に落ちないから、わざと誤解を生むようなことを言った。
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