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自分がとんでもないところに連れて来られ、取り返しがつかないことになっていることに気づいたのは、拘置所に入ったときだった。
無骨で重たい鋼鉄の扉。わずかにガス灯が灯るが薄暗く、コンクリート打ちっぱなしの部屋と廊下。無数の鉄格子に閉じ込められた汚い格好の囚人。吐き出してしまいそうなる汚物の醜悪なにおい。
「放して! 私はやってない! 私じゃないの!」
「うるさい、だまれ!」
ここに連れて来られるまでに、何度このやりとりをしただろう。もはや何を言っても無駄だと思っていた。しかし、この牢屋に閉じ込められるのかと思うと、叫ばずにはいられなかった。
「嫌! なんでこんなとこ……あうっ!?」
突然、監守に頬殴られて転倒する。
手には手錠をかけられ、うまく受け身を取れず、体をすりむいてしまう。
頬とすりむいたところが熱くうずく。
「おい、立て!」
「いっ……」
髪をつかまれ、無理矢理立たされる。
監守は鍵を取り出し、手錠を外してくれた。
もしかして解放されるのではないかという、淡い期待を抱く。だが、鉄格子の内側に突き飛ばされ、戸を閉めしめられてしまう。そして、無情にもガチャリと鍵も閉まった。
鉄の檻に閉じ込められてしまった。つまり、自分は今から囚人ということ。これまで以上に絶望感が湧いてくる。
「開けて! 私は何もしてないの! 無実なのよ!!」
「離れろ!」
鉄格子をつかんでいると、看守が持っていた警棒で思いっきり腹をつく。
「うぐっ……」
腹から胃液がこみ上げてきて、なんとか堪えようとするが吐き出してしまう。
「静かにしてろよ」
そういうと看守は来たほうへ引き返していってしまう。
「はあはあはあ……」
気分が悪かった。腹の中のものが逆流したこともあるし、自分は罪人となってしまい、もはや自由がないのだと思い知らされ、この世界が信じられなくなっていた。
発端はあまりに突然のことだった。
今朝、モニクはいつものように両親と朝食を食べていた。青天の霹靂のように、警官が現れ、有無を言わせずモニクを連れていってしまったのだ。
それから刑事に一方的に怒鳴られながら取り調べを受け、こうして拘置所に連れて来られた。
すでに日は落ちている。部屋着のまま連れて来られてしまい、着替えたいしお風呂も入りたいが、もはや叶わぬことだろう。
少し落ち着きを取り戻し、モニクは牢屋を見渡して状況を確認する。
隣の部屋とはコンクリートで仕切られていて、誰がいてどんな様子なのか分からない。鉄格子は頑丈で揺すってもびくともしない。床はあちこち黒く汚れている。
モニクのいる部屋にはバケツが一つ、毛布が一つ。そして、大きいゴミが一つ。
いや、違った。
「人……」
部屋にはすでに人がいたのだ。
暗くてよく見えなかったが、ボロボロの黒い服を着た人が壁を背に、前屈みになって座っていた。
おそらく女性だ。長く伸びたボサボサの黒髪のせいで顔は見えない。手足はアザだらけで、出血のあともあった。
「死んでる……?」
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