牢と魔法使い

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「君の両親には、企業からお金が支払われてるんじゃないかな」 「ウソ……でしょ……」  モニクは力なく、がくりと膝から崩れ落ちた。 「たぶんだけど、殺された人は実際にいて、事故か何かで亡くなった受刑者なんだと思う」  これにもモニクは絶句するしかなかった。 「『荒唐無稽すぎる、そんなことない』って否定してもいいところだけど?」  女性の言い方に皮肉が込められすぎていて、むっとしてしまう。だが確かに思い当たることがあった。 「……そうね。私は捨てられたのかもしれない……」 「どうしてそう思うの?」 「長くなるわよ?」 「いくらでもどうぞ。ここには永久の時間が流れているからね」  女性の物言いは恐ろしいが、もはや牢屋の中、今さらじたばたしても仕方ない。モニクは床の砂を払ってから、女性の隣に腰を下ろした。  はじめはとっつきにくいと思っていたが、女性とは話しやすく、すらすらと言葉が出てくる。 「私は昔から扱いにくい子だったのよ……」 「へえ、自分で言っちゃうんだ」 「はは……気づいたのは最近だけどね。バカだったのよ。子供のころから大きなことがしたくて、官僚になって世界を変えてやるんだーと、中身子供のまま試験を受けたの。でも、門前払いされたわ。女はなれないって」 「うん。女の官僚なんて、聞いたことないね」  世では女性の社会進出が進んでいたが、公職につく人はほとんどいなかった。 「それで知り合いの紹介で、近くの工場で働くことになったんだけど、すぐクビになっちゃった」 「上司でも殴った?」 「あはは、殴ってやりたかったね。あいつ分からず屋なのよ。こうしたほうが効率いいって言ってるのに、全然認めようとしないんだから」  モニクは自分のすることに自信を持っている。そしてすぐ思っていることが口に出てしまう。それで何度失敗したか分かったものではない。 「でも、口ばかりで仕事もろくにできないのかって親に怒られて、お見合いすることになった。私は逆らえず、言われるままに結婚した」 「結婚……」 「でもすぐに離婚しちゃった。好きになろうと努力はしたんだけど、好きでもない人と一緒にいられず全然ダメだった。悪い人じゃなかったのに。あれはホントひどいことをしたと思う……。親にもだいぶ恥をかかせた……。人に迷惑かけるばかりで、結局何もできないんだよ、私……」 「そっか……。自分のやりたいことがはっきりしてるのはいいことだよ」  これまでシニカルだった女性がフォローを入れてくれるので、モニカはびっくりしてしまうが、それだけ彼女と距離を縮められたことは嬉しかった。  醜悪な環境の牢屋で、絶望せずにいられるのは彼女のおかげだ。
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