14人が本棚に入れています
本棚に追加
「君の両親には、企業からお金が支払われてるんじゃないかな」
「ウソ……でしょ……」
モニクは力なく、がくりと膝から崩れ落ちた。
「たぶんだけど、殺された人は実際にいて、事故か何かで亡くなった受刑者なんだと思う」
これにもモニクは絶句するしかなかった。
「『荒唐無稽すぎる、そんなことない』って否定してもいいところだけど?」
女性の言い方に皮肉が込められすぎていて、むっとしてしまう。だが確かに思い当たることがあった。
「……そうね。私は捨てられたのかもしれない……」
「どうしてそう思うの?」
「長くなるわよ?」
「いくらでもどうぞ。ここには永久の時間が流れているからね」
女性の物言いは恐ろしいが、もはや牢屋の中、今さらじたばたしても仕方ない。モニクは床の砂を払ってから、女性の隣に腰を下ろした。
はじめはとっつきにくいと思っていたが、女性とは話しやすく、すらすらと言葉が出てくる。
「私は昔から扱いにくい子だったのよ……」
「へえ、自分で言っちゃうんだ」
「はは……気づいたのは最近だけどね。バカだったのよ。子供のころから大きなことがしたくて、官僚になって世界を変えてやるんだーと、中身子供のまま試験を受けたの。でも、門前払いされたわ。女はなれないって」
「うん。女の官僚なんて、聞いたことないね」
世では女性の社会進出が進んでいたが、公職につく人はほとんどいなかった。
「それで知り合いの紹介で、近くの工場で働くことになったんだけど、すぐクビになっちゃった」
「上司でも殴った?」
「あはは、殴ってやりたかったね。あいつ分からず屋なのよ。こうしたほうが効率いいって言ってるのに、全然認めようとしないんだから」
モニクは自分のすることに自信を持っている。そしてすぐ思っていることが口に出てしまう。それで何度失敗したか分かったものではない。
「でも、口ばかりで仕事もろくにできないのかって親に怒られて、お見合いすることになった。私は逆らえず、言われるままに結婚した」
「結婚……」
「でもすぐに離婚しちゃった。好きになろうと努力はしたんだけど、好きでもない人と一緒にいられず全然ダメだった。悪い人じゃなかったのに。あれはホントひどいことをしたと思う……。親にもだいぶ恥をかかせた……。人に迷惑かけるばかりで、結局何もできないんだよ、私……」
「そっか……。自分のやりたいことがはっきりしてるのはいいことだよ」
これまでシニカルだった女性がフォローを入れてくれるので、モニカはびっくりしてしまうが、それだけ彼女と距離を縮められたことは嬉しかった。
醜悪な環境の牢屋で、絶望せずにいられるのは彼女のおかげだ。
最初のコメントを投稿しよう!