EP1 隼人

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コツコツコツコツ 『こんばんは』 『いらっしゃいませ』 沙絵子さんは推定38歳 いつも綺麗めな服を身に纏い フローラル系の良い香りをさせている アクセサリーはゴールドが好きで シンプルな時計と 華奢なネックレスは セット使いが好みである 『本日のオススメでございます』 沙絵子さんはメニューを見ない 『あら。こちらのお店はコースでいきなりお紅茶が出てくるのね笑』 沙絵子さんは 微笑みながら こちらを向いた 『沙絵子様、ご来店ありがとうございます。こちらの紅茶は若葉を使用したものになります。』 『香りはほんのりと甘く、浅いのですが、味わいはとても深いものです』 『例えるのならば、見た目は桃の花、風合いは蘭の花』 『まぁ』 『ありがとう。いただくわ』 沙絵子さんは前回のご来店の際に 来月雅叙園で行われる【華道展】のお話をしていた 何の気無しに取引先のお付き合いで足を運んだその華道展に、それはそれは心を動かされた様子で 『心に、何かが実るのよ』 と話していた その口ぶりからも、毎年楽しみにしている様子が伺えた 俺はその日すぐに【華道展】を調べ 実際に足を運んだ 『心に何かが実る』感覚を味わいに行ったのだ そして沢山の華の表現を観た 世界観に圧倒されたのだ そして心が満たされた後に 沙絵子さんの心を想った 沙絵子さんは来店されたその日 とある紙袋を持っていた 間違いない【華道展】の帰りである 【今日は紅茶からだ】そう思った 華道展を見た後に 俺は急に 研ぎ澄まされた穏やかな湖の様なものが観たくなった 滝ではなく、海でもない そしてその半透明な水の底に 自身の心の情景を沈める 少しだけ揺れる 水の踊りが心地よかった 沙絵子さんは ほんのり甘い香りを含ませながら 遠くを眺めていた レストランは 心を満たす為の空間である
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