エピローグ③ 終幕

1/1
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/48ページ

エピローグ③ 終幕

「2人でイチャついてないで川に入らない?」  朱美ちゃんが後から声を掛けてくる。 「いやぁ、美女2人の水着姿が見れて俺は感無量です」  俺は少しおどけて笑う。 「うぉぉ、やべぇ」  川の方から声が聞こえたと思ったらノブが結構な勢いで流されてた。 「おーい、大丈夫かぁ?」  慌てて川岸に駆け寄る。 「危ねぇ。危うく夕方のニュースに出る所だったわ」  ノブが苦笑いを浮かべながら川から上がって来る。  それから暫くは4人で川に入ったり川岸で喋ったり、楽しく自由な時間を満喫した後、日が傾いてきた頃にはBBQを楽しんでいた。 「おお、そう言えば泰文いただろ。あいつ今、佐和子と2人で動画配信してるらしいぞ」  ノブが肉を頬張りながら懐かしい名前を口にする。 「はは、マジで!?あの2人どうなってるんだ?動画は伸びてるのか?」  あの時以来、ゆっくり話す事もなかったので懐かしさを感じる。 「ああ、なんか聞いた事ある名前だなぁ。私が九州から帰って来た時に駅で会った人達だったっけ?」 「そうそう。凄いな。ちゃんと覚えてるんだ」  そんな事を喋りながら缶ビールを開ける。 『プシュッ』 「きゃっ」  少し雑に開けてしまったせいか朱美ちゃんに泡がかかってしまった。 「あっごめん。大丈夫だった?」 「もう、顔にかかったよー」  朱美ちゃんはそれでも明るく笑ってくれてる。 「ちょっと健太、顔にって。俺もかけた事ないのにー……痛っ」  ノブが何か叫んだ後、朱美ちゃんに叩かれていた。  久し振りに4人で集まり、楽しい時間は瞬く間に過ぎて行く。 「ふぅ、あっという間だったな」  1人薪を火にくべながら呟く。  日は落ち、辺りはもう既に真っ暗になっていた。 「どうしたの?1人でキャンプファイヤー?」  美優が笑いながら声をかけてくる。 「いやぁ、久し振りに集まったからなんか学生時代思い出しながら浸ってた」 「まぁ、あの頃は色々あったけど楽しかったし自由に過ごしてたもんね。勿論今も楽しいけどね」 「そう言えばノブと朱美ちゃんは?」 「ロッジで(くつろ)いでたよ。なんかハンモックで遊んでたかな?」 「ははは、そうなんだ」  自然の中で緩やかな時間を過ごす。  そんな中ふっと川の方を見ると女の人が1人川に浸かっていた。 「こんな真っ暗でも川に入る人いるんだな。昼間に日焼けして暑いのかな?」  俺が少し笑いながら美優に問いかけると、 「えっ、ちょっとこんな時間におかしくない?」  美優が怪訝な表情を見せる。 「いやまぁ、この時間に川遊びする人は少ないとは思うけどそういう人もいるんじゃない?」  俺の軽い考えとは逆に美優の表情がどんどん険しくなっていく。 「……ねぇ健太。私の目がおかしいならまぁそれでもいいんだけど、あの女の人の周りおかしくない?」  美優が言ってる事を理解出来ないまま川の方を見つめていると、 「ねぇ、あそこ川だよ。流れがあるはずなの。それなのにあの人の髪、流されてないんだよ」  美優に言われてよく目を凝らすと確かに女の人の髪はその場に漂っているだけで流されていない。 「……あ、あそこだけ流れが物凄く緩やかとか」  苦しい考えだとは自分でもわかっている。 「本気で言ってる?それにあそこって昼間にノブ君が足をとられて流されてた所じゃない?」  確かに美優の言う通りだ。  そこは昼間ノブが急激に流されていた場所だった。 「はぁ」  2人でため息をつき、お互い顔を見合わせる。 「もういい加減にしてほしいんだけど」  美優は物憂げな表情を浮かべている。  まだ暫くは怪異と付き合わきゃならないのかもしれない。 ――了――
/48ページ

最初のコメントを投稿しよう!