夜景の綺麗な所なのに・・・②

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夜景の綺麗な所なのに・・・②

 午前0時頃  前に来た鉄の門に到着。 「さてとじゃあやってみようか」  勇介が意気揚々とアルミ製の板を用意しだす。 「いや、何処から出した?そんなアルミの板」  思わずツッコンでしまう。 「いや、どうにかあの先に行けへんか考えてたらな、このアルミの板を門の横で足場にしたら一本橋の要領でバイクで門の向こうに行けるんちゃうかなって思ってさ」  そう言いながら勇介はアルミ製の板を門の横にセットし始める。 「それで今日の仕事中にトラックでこの足場をここに運んどいてん」  勇介は得意気に説明しだした。 『なんとまぁ段取りの良い事で』  心の中でそう呟きながら。 『よっぽどあの先に行きたいんだな』  とその執念に感心していた。  勇介がセットしたアルミ製の一本橋をバイク1台づつ皆で通して行って到着から20分程で皆バイクごと門の向こう側へ行く事が出来た。 「よしこれで明かりに困らずにずっと登って行けるな」  勇介が得意気に言った。  皆で真っ暗な山道を登って行くと前4台、後3台のグループに分かれだした。  だいたいこういった山道を走るとスピードを出してグイグイ行く者とゆっくりのんびり行く者に分かれる。  俺はその時の気分によって色々だがこの日は後方グループにいた。  途中ヘアピンカーブなどもあり『ちょっと走り屋が好みそうな所だな』と思いながら山道を登って行くと開けた駐車場のような場所に着いた。  ようやくここがゴールかと思っていると、前を走っていたグループが何やら騒いでいる。 「絶対いたって」 「私も女の人見たで」  佐和子と沙織(さおり)だ。 「俺は見てないけどなぁ」  勇介が首を傾げながら言う。 「あんな所に女の人がいたらさすがに気付くと思うけどなぁ」  泰文が続く。  どうやら佐和子と沙織がヘアピンカーブの所で女の人が立っていたと言ってるらしい。  真夜中の封鎖された山道のそんな所に女の人が立ってたら幾ら何でも気付くだろうし、前方グループと後方グループが離れてたとはいえ2、30m程、時間にすれば数秒程だ。 「どうだった?お前らの方で誰か見た奴いる?」  勇介が聞いてくるが勿論俺達後方グループは誰1人そんな女の人は見ていない。 「いやさすがにあんな所に女の人はいないやろ。佐和子と沙織の見間違いって事でいいんじゃない?」  一応佐和子と沙織を立てつつ否定しといた。  暫く向こうでは女の人がいたとかいなかったとかで盛り上がっていたが俺はそんな事は他所(よそ)にボーッと夜景を眺めていた。 「ねぇねぇ綺麗な夜景だよね」  朱美ちゃんが話し掛けてきた。 「うーん確かに」  俺は静かに頷いた。 「これだけ夜景が綺麗で駐車場もちゃんとあるのになんで道を封鎖してるんやろう?」  ノブがもっともな疑問を投げかけてきた。 「そうなんだよなぁ。封鎖する意味がわかへんよなぁ」  俺も同じ様に悩んでいると 「そう言えばさぁ健太君。2週間ぐらい前に駅前のコンビニで会ったやん?その時に一緒にいた背の高いショートカットの子覚えてる?」  まったく話しの流れに乗っていない質問に呆気に取られていると 「その子ね美優(みゆ)って言うんだけど、美優が健太君の事ちょっと気になってるみたいでさぁ、今度4人で遊びに行こうかって事になったんだけど、どうかな?」  いや、今このタイミングでその話題になる!? 「え、あっ、いや、えっとどうかな?って言われても」  予想だにしない提案に戸惑いながら思い出してみると、確かスラッと背の高いモデルのような綺麗な感じの子とちょっとだが言葉を交わして笑っていたのを覚えている。 「えっ俺紹介してもらえるの?」  なんの前触れもなく素晴らしい話しが持ち上がり俺はテンションが上がった。 「また考えといてよ。ちゃんとセッティングするからさ」  朱美ちゃんは最高の笑顔で微笑みかける。  いやもう朱美様と呼ばせていただきたいぐらいだった。 「おい良かったやんか。美優ちゃんって1回会った事あるけど綺麗な子やったぞ」  ノブも何故かテンションが上がっていた。  そんなこんなで各々で談笑していた時ふと駐車場横にある木の所に目をやると佐和子が座り込んでいた。 「おー佐和子どうした?疲れたのか?」  皆が女の人の話を信じないから不貞腐れてるのかなと思って声を掛けてみた。 「え、あぁ、うん」  やはり元気がない。佐和子は本当に感情の起伏が激しいなぁと思っていると。 「ねぇもう帰るのかなぁ?」  ここでも予想だにしない質問が返ってきた。 「そうやな。これ以上ここにいてももう何もないやろうしもう少ししたら帰ると思うけどな」  たまにダラダラと1箇所に居続ける事もあったが今日はもういいかなと思い 「勇介そろそろ降りようか」  勇介にそう促すと皆も片付けをしだし出発の準備を始める。  俺も帰り支度を始めようかとした時、妙な視線を感じ振り返った。  佐和子がジッと俺を見ていた。  その視線にゾッとした俺は思わず視線を逸らし帰り支度を急いだ。  そしてさぁ帰ろうかとバイクに跨ろうとしていると横に佐和子が来た。 「ねぇ後乗っていい?」 「えっ?」  突然何言ってるんだコイツは?  俺はバイクの後には女の子は乗せない。  いずれ出来るはずの彼女の為に取ってあるのだ。  これは俺のこだわりであり皆に周知の事だった。 「いや、佐和子は今日泰文の後乗って来たんだから泰文の後乗ったらいいだろ?」  さっきの視線の事もあり俺は少し気味悪さを感じていたのかもしれない。 「あっそうか。泰文君どこ行った?」  佐和子は笑顔で聞いてきた。 「えぇ、泰文はええっと、ほらあそこにいる」  泰文は少し離れた所で帰り支度をしていた。  何故見つけられないと不思議そうな顔をしていると「ほらウチ背が低いから見つけられなくて」  そう言いながら佐和子は泰文の元に歩いて行った。 『いや背が低いからってこの人数で見つけられへん事はないやろ。それに・・・』  そう思っていると 「あれ?今の子健太君の事、気になってるのかな?」  朱美ちゃんが聞いてくる。 「いやいやさすがにそれは無いって」  俺は笑いながら否定する。 「もぅ、なんだかんだモテモテですな~旦那」  ニヤニヤしながら朱美ちゃんは言ってくる。  そうこうしてる内に出発となった。  俺は前から2番目を走りながら『こういう肝試し系の帰りはいつもより気を付けよう』そう思いながら慎重に降って行くと例のヘアピンカーブに差し掛かった。  いつもより慎重にカーブを曲がっていると  キキー!ガシャーン!!  後から激しい衝撃音が響いた。 『誰か転けた!』  咄嗟にバイクを端に止め駆け寄ると泰文と佐和子が倒れていた。 「おい大丈夫か?」  2人の元に駆け寄ると 「あぁクソッ!佐和子何してんだよ~」  泰文が苛立ちながら叫ぶ。  基本バイクはカーブを曲がる時、体重移動で曲がる。  勿論それは後に乗ってる人間もそうで体重移動をしっかりするか運転手にしっかりと身体を預けてもらわないと非常に危険だ。  泰文の話しによるとどうやら佐和子があろう事か曲がる方向とは逆に体重を掛けたらしい。  それで泰文のバイクは曲がりきれずに転倒したようだ。  それでも泰文の咄嗟の判断で転倒してよかった。  転倒しなければ曲がりきれずそのまま進んでしまい山の側面に激しく衝突していただろう。 「おい佐和子大丈夫か?」 「おいしっかりしろ!」  皆が佐和子の元に集まる。  どうやら佐和子は意識を失っているようだ。 「マズイ、救急車呼んでこんな所まで来れるのか?」 ノブが焦りながら言う。  皆、顔面蒼白だ。  多分俺もそうだったんだろう。 「とりあえず3人乗りのような形で間に佐和子を挟んで門の所まで運ぼう」  勇介が焦りながらそう提案すると確かにそうするしかないなとなって皆で慎重に門の所まで降りて行った。  門の所まで降りて来て5分程で救急車は来てくれた。  事故した所ですでに朱美ちゃんが救急に電話してくれてたおかげだ。  泰文も救急車で一緒に乗って行ったため泰文のバイクを沙織が乗って家まで届ける事になった。  あんな事があった後なので俺とノブ&朱美ちゃんも一緒に行く事になった。  そして泰文の家に着いた時ふと気が付いた。  次は誰かが沙織を送らなきゃいけない。  そうこの場合俺の後にしか乗る所はないのだ。 「なんかごめんね。私が乗せてもらう事になっちゃって」  申し訳なさそうに笑う沙織に 「いやいやそんな気にするような事じゃないから。今はとりあえずあいつらが運ばれた病院に行こう」  俺はそう言って返した。  彼女しか後に乗せないって決めてたのに彼女以外を乗せてしまったが今回はそれどころじゃなかったし仕方ないと思いながら俺達は病院に向かった。  病院に着くと皆がいて泰文も元気そうにそこにいた。 「泰文は大丈夫そうだな。佐和子は?」  不安になり聞いてみたが 「さっき気が付いたみたいで、大丈夫そうやけど一応今日は泊まって明日検査するらしい」  勇介が安堵の表情で教えてくれた。  とりあえず一安心で皆それぞれの帰路についた。
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