『Shining』

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 子どもの頃、ミュージシャンになるのが夢だった。自己主張が苦手でなかなか友達ができなかった僕に、父親が物置から引っ張り出してきたギターを与えてくれたのが始まり。それから父に教えてもらいながらコードを覚えて、メロディーを奏でて、ついには弾き語れるようにまでなった。どんどんとできることが増えていく喜びに、僕は夢中になった。  そんなある日、音楽の授業で披露した歌が上手いと周りから持て囃され、僕の周りには人が集まるようになった。歌でなら、僕はみんなに認めてもらえる。歌でなら、自分を表現できる。そう思ってしまったら、あとは進むしかなかった。親に頼み込んでレッスンを受けさせてもらい、時々小さなステージにも上がれるようになった。琥珀色のスポットライトの下で、ギター片手にのびやかに歌声を響かせる。鼓動とともに走る音が上手く重なり合う瞬間が、たまらなく好きだった。だが、そんな夢見心地な気分もあの日を境に打ち消された。  それは強い雨の日だった。僕は歌のレッスンの先生に勧められて受けた、歌の上手い一般人を集めて競わせるテレビ番組の本戦に進むことになったのだ。そこには僕と同世代の子がたくさん出演していた。僕の順番は最後から三番目。出番を待っている間、他の子の歌を聴くことになる。最初の出番は、小柄な男の子だった。彼が舞台に立ち、歌い始めた瞬間。勝てないと思った。僕はきっと、この子を追い抜くことも、ましてや並ぶこともさえできない。次の子も、その次の子も、みんな上手かった。僕なんてきっと、足元にも及ばない。その後の自分の出番の時のことは覚えていない。ちゃんと歌えていたかも定かではなかった。そして、ちょうど声変わりの時期も重なって、思い悩んだ末に僕はレッスンをやめた。それからも独学で弾き語りは続けていたけれど、心のどこかではあの日の想いがずっとしこりになっていた。
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