『Shining』

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『Shining』

 琥珀色の水面に、自分の辛気くさい顔が映っていた。周りにたゆたう泡が小さな生き物のようにみちみちと流動している。 「なに? もう酔ってんの?」 「……違いますよ」  カラオケボックスの片隅、酔うとやたらと絡んでくる先輩に冷たい視線を向けてあしらいながら、僕は小さくため息をつく。この会社に入ってもう一年ほど経つが、未だにこの二次会のノリには慣れない。対角にある席ではテンションの高い先輩社員たちが「次は自分だ」と言わんばかりにマイクの争奪戦を繰り広げていた。よくもまぁ、あんなクオリティで堂々と歌えるものだ。嫌でも耳に入ってくる乱暴な歌声に息苦しさを覚えて、おもむろにネクタイを緩めた。自然と、眼下の自分の格好が目に入る。堅苦しいスーツに身を包んで、見た目だけは立派な革靴を履いている。絵に描いたようなサラリーマン姿の未来を、昔の自分は想像していただろうか。  またグラスの中に視線を戻すと、琥珀色の水面が照明に反射してきらきらと輝いていた。がつん、誰かがテーブルを蹴ったのか音がして、急に水面が激しく歪んだ。ゆらゆらと揺り戻ってくる間に、辛気臭い自分の顔が徐々に少年時代の顔に変わっていく。琥珀色の中で、輝くスポットライトの下で釣り合わない大きさのギターを携えて僕は笑顔で歌っていた。
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