さくらとココア王子

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 首から提げている名札には、入社したての頃の顔写真が載っていて、今とあまり変わらないアイドル顔がこちらを見ている。名前は守永侑希(もりながゆうき)。放射線技師。  ここの病院の職員は、職種によって制服が違うが、白衣を着ているからといって全員が医者という訳では無いようだ。現に目の前の放射線技師も医者ではないのに白衣を着ている。なので白衣を来ている人は名札を見ないと医者かそうじゃないか判別がつかない。ここにバイトに来て約一年。白衣の人が来たら真っ先に名札を見る癖がついた。別に医者だから接客を丁寧にするとか、そういったことをする為に見ている訳では無い。ただの好奇心だ。  注文を受けた店員がドリンクを手渡しするシステムなので、レジで会計をしている間にココアのサーバーにホット用のカップをセットしてボタンを押す。湯気と共にフワッと香るココア。蓋を付けて湯気も香りも閉じ込める。 「お待たせいたしました。熱いのでお気を付けくださいませ」  会計を終えた守永さんに営業スマイルでココアを差し出すと、彼は右側の頬をくぼませ「ありがとうございます」と両手で受け取って、コーヒーショップを離れた。  先輩によると、わたしがここでアルバイトを始める前から、守永さんはほぼ毎日ココアを買いに来ているらしい。よっぽどココアが好きなのか、倹約家なのか。まぁ何でもいいけど。
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