さくらとココア王子

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「やっぱりココア王子、さくらちゃんには普通だね」  レジ係をしていた、同じくバイトの莉衣菜(りいな)ちゃんに声を掛けられた。彼女は二十歳の看護学生で、飛鷹総合病院の隣にある看護学校の生徒だ。授業が始まる前までここでアルバイトをしている。年下だが、バイト歴は莉衣菜ちゃんのほうが半年ほど長い。ボブカットの薄茶色の髪の毛をゆるふわに巻いて、わたしより背の小さいタレ目の莉衣菜ちゃんは癒し系。こんな看護師が担当だったら癒し効果で病気も治りそうだ。  ココア王子というのは莉衣菜ちゃんが名付けた名称で、このカフェではわたし以外が守永さんのことをそう呼んでいた。 「わたしは男の店員と同レベルってことよね」  悲しいかな、さっきの放射線技師──守永さんは、どうやら莉衣菜ちゃんに気があるらしい。いや、莉衣菜ちゃんだけでなく他の女性店員に気がある。ただし、わたし以外。  というのも、わたしと男性店員には普通に注文したり受け答えするのに、莉衣菜ちゃんや他の女性店員だと顔を真っ赤にして目を泳がせながら注文するのだ。多分、女性が苦手なんだろうけど、わたしも生物学的には女性なわけで、男性店員に対する受け答えと一緒なことに、つい特段の営業スマイルが出てしまったりする。別にどうでもいいけど。 「顔はめっちゃいいんだけど、人によって態度変えるの、莉衣菜は嫌だなぁ」  莉衣菜ちゃんは頬を膨らませた。ハムスターみたいでますます可愛い。 「金づるだと思って働こうよ」  身も蓋もないことを言うと、「さくらちゃんってクールだよね」といつもの言葉を言われた。
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