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さくらとココア王子
「お待たせしました。熱いのでお気を付けくださいませ」
熱いエスプレッソの入ったカップを、白衣姿の男性客に手渡す。彼は「どうも」と言って受け取り、白衣を翻して去っていった。
時刻は朝六時半。東京にある飛鷹総合病院一階のテイクアウト専門のコーヒーショップで、わたしは朝六時から働いていた。
ここは病院内にあるため、入院患者やお見舞い客、看護師や医師など色んな人が利用する。朝一番は職員が多く、病院の外来が始まる午前九時頃から一般客が増え始める。
入院病棟もある総合病院なので、夜勤や当直の職員の為にこのコーヒーショップも二十四時間開いている。わたしは基本、午前六時から午後一時までの七時間勤務を週五日こなすアルバイトだ。
「おはようございます。ホットココアSサイズをひとつ、お願いします」
あ。いつもの人が来た。
このコーヒーショップは、通常だとココアSサイズが百五十円のところ朝六時から十時まで限定で、百円で買える。
毎朝それを買いに来るのが、160センチのわたしと変わらない背丈に白のユニフォームと白衣を纏った、アイドル顔の男の人だった。顔が小さく、笑うと右側にだけえくぼが出来る。わたしが今年二十四歳なので、同じくらいか年下か。見ようによっては中学生にも見え、本当の年齢は不詳だ。
「はい、ホットココアSサイズひとつですね。他にご注文はございませんか?」
いつもと同じ質問をして「はい、大丈夫です」といつもと同じ返事をされる。
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