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いくら考えてみても、今の花那がどうするべきなのか答えが出ない。いや、本当は出ているのかもしれないが今の花那にはそれは辛い選択だった。
――私たちの契約期間はとっくに過ぎてしまった、このままずるずるとこの家に居続けるわけにはいかないわ。早く出て行かなきゃ、颯真さんもきっとそれを望んでいるはず。
そう思うのに、花那は胸がギュッと痛くなり動けなくなる。
頭の中ではちゃんと分かっていても、彼女の心は全く違う事を望んでいるのだから。正直な気持ちを伝える事なんて出来ないと分かっているのに、まだ颯真から離れたくはない。
――だって見せてくれるようになった、色んな表情を。聞いてくれるようになった、くだらない意味もない私の話も。教えてくれるようになった、彼の思っている事を少しだけ。
だから……
これから颯真と一緒に居る方法を、花那は一つしか見つけることが出来なかった。記憶が戻ったと分かればきっと颯真は花那から離れていくに違いない。
彼が今優しいのは、自分が事故で記憶を失ってしまったからだと彼女は考えていたのだ。
――それならば記憶が戻らなければ、まだ颯真さんの傍にいられる?
決して良くない事だと花那も理解している、もしバレてしまえば颯真の心はあっという間に花那から離れてしまう事も分かっているのに。
……それでも俯いて瞳を閉じたまま、花那は心の中で静かに覚悟を決めた。
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