変えられない現実に

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「じゃあ俺は先に寝るよ、おやすみ花那(かな)」  リビングで本を読んでいた颯真(そうま)が立ち上がり、花那の傍へと寄ってくる。普段ならそう言って彼はすぐに自室へと向かうのに、今日は違ったようで……  ソファーで紅茶を飲んでぼんやりしていた花那は少し驚いたが、どうしたのかと微笑んで見せる。 「……何かあったのか?」  まさか颯真からそう聞かれるとは思っていなかった花那は目を見開いて彼を見つめ返した。伸ばされた彼の手が、少し湿り気を帯びた花那の髪に触れる。そっと髪を梳いていく颯真の手は優しく、彼が本当に花那を心配してくれているのだと分かる。    ――今聞けば、本当の事を応えてくれるかもしれない。  そう思ってるのに、口は堅く閉ざされ動いてくれない。自分は隠し事をしてるのに、どんな顔をして颯真だけに本当の事を話してと言えるのか。狡くなれないのは花那の真面目過ぎる性格の所為。 「どうして、そう思うの?」 「分からない、でも花那の笑顔がいつもと違う気がする」  静かに髪を梳いていた手がゆっくりと花那の頬へと移動する、そんな颯真の指先が意外と冷たくてちょっとだけ肩をすくめてしまった。  花那の反応に、颯真の手が静かに離れていく。だが花那はそれがとても寂しい気がして……そっと颯真の手に自分の手を添えてもう一度花那の頬へと戻す。 「……花那?」
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