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「もう少しだけ、冷たくて気持ちがいいから」
颯真は滅多なことでは花那に触れることは無かった、それなのにいつの間にかこんな風に自然に彼女へ手を伸ばしてしまうようになっている。彼が触れたいのは花那の髪だけではない、その白い肌に目を奪われることも少なくなかった。
そんな欲望を今の花那に知られるのが怖くて、颯真は必死で隠している。だがこんな風に花那から触れられればそんな努力も一瞬で揺らぎそうになってしまう。
「花那、俺も……」
――もっと君に触れていたい。そう口にすれば彼女はどうするだろう? 少しは俺を恋愛対象として意識してくれるだろうか。それとも?
怒ってくれるだけならばいい、怖いのは彼女が自分の傍からいなくなってしまう事。あの日のように花那がまぼろしみたいに消えてしまう事。
今度そうなったら颯真は立ち直れない気がしていた。
「ごめんなさい、変よね私。少し疲れてるのかも、部屋に戻って休むわ」
「……ああ」
一歩踏み出せば二人の距離は良くも悪くも変化する。それが怖くてお互いに同じ場所で動けないまま胸を痛めている。
そんな時に限って、穏やかではいられないような出来事が二人の想いを試してくる。花那だけがその事に気付き、静かに心揺れていた。
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