変えられない現実に

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「は……勘違いだった? それじゃあ患者さんは今どこに?」 「そうなんです、すみません。患者さんももう大丈夫だって帰ってしまって」  どうしても今すぐ診て欲しいという患者がいる、看護師の身内だから診てやってくれないか? そう院長から言われてやってきたはずなのに、肝心の患者がいない。  緊急で見て欲しいと頼んでいながら、状態が良くなったからと言って帰るなんてありえない。そう思った颯真(そうま)は待っていた看護師にすぐに患者に連絡を取るように指示をする。 「え、でも……もう平気だからいいって。患者さんピンピンしてましたし」 「患者さんというのは君の身内なんだろう? 帰る途中に何かあったらと心配じゃないのか」  新人とはいえ看護師だ、しっかりした意識をもって対応して欲しい。そう思っての彼の言葉だったのだが、その看護師はショックを受けたような顔をして俯いてしまう。  肩を震わせ嗚咽を漏らすその姿に、颯真は溜息を吐いて立ち上がる。泣かせるほど責めたつもりはない、それでもやはりそのままにはしておけなかった。  そんな優しさに付け込もうとする、そんな人間もいるというのに…… 「ほら、ハンカチを使って。これはもう返さなくていいから」 「深澤先生、優しいんですね。やっぱり私の……」  そう言って新人の看護師は颯真のハンカチを受け取り涙を拭いて見せる。そんな様子にホッとして席に戻ろうと後ろを向いた、その時―― 「私、深澤先生が好きなんです」
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