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いつの間に傍に来ていたのか、看護師は颯真に手を伸ばし抱きつこうとした。その腕を払って颯真は後ろへと下がる、そんな彼を看護師は上目遣いで瞳に涙を滲ませ見つめてくる。
男が女性のどんな仕草に弱いかを計算したような彼女の様子に颯真は吐き気すら感じそうになる。
「俺には妻がいる、迷惑だ」
「どうしてですか? 愛してないんでしょう、颯真さんは奥さんの事を」
慣れ慣れしく名前呼びなどされたくない。そう思い睨んで見せても少しも効果はなさそうで、看護師は楽しそうにそう言ってくる。
――確かに俺は花那に愛情は無かった、五年間酷い夫だったのは分かってる。けれど、今は違う。俺は花那の事を……
「君には関係ない、たとえそうだとしても俺は君には興味はない」
なのにどうして、今自分は妻を愛していると言えないのか。もしかしたら、それを一番に伝えたいのか花那にだからなのかもしれない。
だがそんな颯真の言葉を自分の都合よく受け取って、看護師は自分のスマホを取り出し画面を開いた。
「そんなこと言わないで、颯真さん。私、あなたのためにあの女を追い出そうと頑張ってるんだから」
「……なんだって⁉」
差し出されたスマホの画面に映るのは、大量に送信されたメッセージ。それも送り先は花那のアドレス、いつこんなものを……
信じられないものを見るような気持ちで、颯真はスマホの画面から目が離せない。
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