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ただそれを申し訳なさそうに話す、そんな颯真を疑い続けるのは難しかった。颯真は少し人の感情に鈍感なところがある、それが原因でこんなことが起こったのではないかと花那は考えた。
――颯真さんは嘘をつくのが上手ではない、でも私に隠し事はしてる。
記憶の戻った花那に颯真は契約結婚や離婚するため彼女が家を出たことについて話はしなかった。彼はまるで自分たちが普通の夫婦だったかのように花那に説明をしていたから。
それが花那を不安にさせる大きな理由の一つでもあった。それでも……
「俺は花那以外の女性に特別な感情を持ったことも、肉体的な関係を持ったことも一度だってない。それは君と結婚してから絶対だと言い切れる」
「……そう、なんですね」
愛情の無い夫婦として過ごした五年間、花那は颯真が他の誰かを愛していても責めるつもりはなかった。自分はただの契約相手に過ぎない、形だけの妻でしかないと思っていたから。
それなのに、彼はきちんと花那だけを妻として扱ってくれていた。たとえそこに愛は無くても……
だが、今の颯真の言い方は少し今までと違っていた。颯真は花那以外に特別な感情を持っていない、そう言った事に彼女はちゃんと気付いていなかったが。
「……どうしようかと思った。また君が俺の前から突然消えてしまったら、俺はどうすればいいのかと」
「それは、どうしてですか?」
その辛そうな颯真の話し方に、花那の胸がチクリと痛くなる。以前に彼の前から自分が消えたことで、こんなにも颯真を苦しめてしまっていたのかと。
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