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「でも、平さんのことは全く解らなかったな」
終始、料理の解説をしてくれた雅貴。
だが、ただ、それだけ。
自らを語ることは、一切なかった。
「多分。いや、絶対にお金持ちなんだろうけど」
この客室も、見事に豪華だ。
複雑な織りの絨毯に、北欧調の家具。
曲線の美しい、シャンデリア。
季節の感じられる、タペストリー。
「僕、夢を見てるんじゃないのかな」
本当の僕は、雨に濡れたまま気を失って、泥水の中に突っ伏しているんじゃないのかな。
そう思ったところで、ドアをノックする音が聞こえた。
「渡辺さんかな?」
ソファから立ち上がり、自らドアを開けたところには、何と雅貴が立っていた。
「平さん」
「解熱剤を、持ってきた」
「ありがとうございます」
「明日、医者にかかるといい」
お医者様、と藍はためらった。
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