第一章 雨の日に

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 雅貴は自宅を『屋敷』と言ったが、まさにその通りだと藍は目を回していた。  広大な敷地。時代がかった洋館。そして、そのさらに奥にある居住のための豪邸。  雨ですっかりあたりが暗くなっていたので、外観はうかがえなかったが、きっと芸術作品のようなのだろう。  邸宅はさすがに現代風の造りだったので、藍はさほど違和感を覚えることはなかったが、それでも緊張してソファに掛けていた。 「ようこそお越しくださいました」 「あ、あの。すみません」  物腰の柔らかな初老の男性にあいさつをされ、藍は背筋を伸ばしていた。  そんな藍に、男性は微笑みかけた。 「どうぞ、おくつろぎください。ただいま、ディナーの前のショコラでもお持ちいたしましょう」 「しょ、ショコラ?」 「お召し物も、ご用意いたします」 「あ……」  そういえば、自分は着の身着のまま裸足で家を飛び出してきたのだ。  今はふかふかのスリッパを履かせてもらっているが、この立派な屋敷にそぐわないこと甚だしい。  小さな体をさらに縮めて、藍はソファで丸くなってしまった。  そんな藍に、男性は柔らかく声をかけて来た。
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