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「静香ー! 遊びにきたぞ!」
古い一戸建ての玄関から声がして、私は夏休みの宿題が乱雑に広げられたちゃぶ台から顔を上げた。
こっちの返答を待つこともなく、賑やかな足音を立ててお茶の間までやってきたのは、隣の家に住んでいる、幼なじみの京くんだ。
「なんだよ静香、宿題してるのか?」
夏休みの初めに、宿題を一緒にやろうと言いだしたのは京くんなのに、彼はノートもドリルも、なにも持たずに手ぶらだった。
「京くん、なんでなにも持ってきてないの?
今日こそ宿題しようって昨日言ってたじゃない」
「こんだけ天気がいいんだぞ?
宿題は明日にして、公園に遊びに行きたくもなるだろ!
クラスの誰かが遊びに来てるだろうから、まぜてもらおうぜ!」
「もう京くんったら。そんなこと言って一週間経つよ。
私だって本当は遊びたいけれど、今日は公園に行けないの」
「なんで?」
「お母さんから、おるすばん、頼まれてるの。
雨が降ったら洗濯物をとりこんでって言われてるし……」
「そっか」
京くんは窓から差し込む日差しに目を向けて考える顔をしたあと、私の横にどかっと座った。
「静香はやることがたくさんあるんだな」
「京くんはお家のお手伝いしなくてもいいの?」
私のふとした疑問に、京くんは得意げに言った。
「俺だって庭の草をむしったり、廊下の雑巾がけ手伝ったりしてるぞ!
お使いだってできるしな!」
なにに対しても楽しさを見出せる京くんが、一生懸命お手伝いをしながら笑っている姿がすぐに想像できて、私はぱちぱちと手を叩いた。
「京くんすごいね!」
「静香だってすごいぞ! 俺はすぐ外に遊びに行きたくなるから、おるすばんは
できないぞ」
「じゃあ京くん、今日は公園に行っちゃうの?」
いつも一緒に遊んでいる京くんがいなくなってしまう。
ひとりぼっちで過ごさないといけないのかな、と寂しくなった私に、京くんは首を振った。
「今日はいいや。静香がいないとつまらないし」
「でも、お外で遊びたいんでしょ?」
「家から出たら外だから、ここも外だぞ!」
「え? 家の中だよ?」
「俺の家じゃないから外だ!」
「京くんのお家じゃないところは、ぜんぶ外なの?」
「そう! だから俺は、静香のおるすばんを手伝うぞ!」
私は目をぱちくりとさせたあと、だんだんおかしくってたまらなくなり、とうとう声を上げて笑った。
「京くんめちゃくちゃだよ」
京くん本人はなんのことかわからない、といった顔をしていて、私はさらに涙がでるほど笑ってしまった。
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