バク3

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バク3

抑揚が薄く一定な声が静かに響く。 大きく開かれた窓からそよぐ風。 なんて心地が良いのだろう。 頬杖を付き、今にも切れてしまいそうな意識を何とか保つ。 机に突いた肘はジンと痺れている。 早く終わってくれと黒板の上の時計に目をやると、授業終了まではまだあと30分もあるではないか…。 ついこの間まで夏休みだったのに…。 怠け切った心身は全く集中してくれない。 はーっと自然に溜め息が零れた。 眠気覚ましにこっそりスマホでも弄ろうとスカートのポケットから取り出すと、小さな紙切れがくっ付いて一緒に出てきた。 あの時の付箋だ。 数日前、上履きの底に貼り付いていたコレ。 誰が何の為に記したものなのだろう。 机の影でスマホを操作し、手始めにTwipperで検索してみる。 すると一つのアカウントが引っ掛かった。 ビンゴ。 やはりTwipperだった。 付箋をまたポケットに突っ込みながら、早速見てみる。 IDが『@tapirus_0123』で、アカウント名は『バク』とある。 その上に、白黒の不思議な生き物の余り上手ではないイラストのアイコンが丸く浮かんでいた。 バクとは…。 動物園にいるあのバクだろうか? プロフィール欄には『僕は夢を食べます。』と一言だけ記してあった。 「ふっ…。」 余りの可愛さに思わず軽く吹き出してしまう。 右手でノートをとるフリを続けながら、机の下に隠した左手でスマホをスクロールしていく。 最新の呟きは4時間程前。 『苦い夢は嫌いです。』と書かれている。 なんだこれ、ホントに可愛いな。 そのまま以前のツイートも遡る。 昨日の日付で『苦い夢ばかりなのです。』、一昨日の日付で『だけど皆がくれるのは』と続く。 どうやら一日一回のペースで書き込まれている様だ。 それに書き込まれた順に読んでいくと、ひとつの文章になっている事が分かった。 一番最初から読みたい。 そう思い、一番下までスクロールすると、思いの外直ぐに到達してしまった。 日付はたったの4日前。 私が付箋を拾った次の日が最初の呟きだ。 それはプロフィール欄と同じ『僕は夢を食べます。』から始まっていた。 全て繋げて順に読んでみる。 『僕は夢を食べます。』 『大好物は甘い夢。』 『だけど皆がくれるのは』 『苦い夢ばかりなのです。』 『苦い夢は嫌いです。』 胸がキュッとなった。 ホンワカと平和でゆっくりとしている世界観。 そこに一瞬で引き込まれた。 フォローもフォロワーも0。 生まれて間もないこのアカウントが、まるで本当に夢を食べるバクの赤ちゃんみたいに思えて愛おしくなった。 私は左上にある設定を操作し、いつも使っているアカウントから、知り合いには教えていない裏のアカウントへ切り替え、@tapirus_0123をフォローした。
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