バク8

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バク8

化学室。 背もたれのない四角い椅子。 美術室の椅子も、小学校の図工室と理科室も、中学校の技術室と家庭科室も、特別教室は大体これだった気がする。 何か意味があるのだろうか。 前に優里亜の付き合いで行ったライブハウスでこれによく似た楽器を見た。 何だったか。 確か… 「カホンに似てるよな?この椅子。これも叩いたら良い音するんかな?」 驚きで息が詰まった。 4人掛けの大きな机。 隣に座っている原口が、肩を寄せて顔を覗き込んでくる。 椅子をガタッと鳴らしながら過剰反応してしまった。 「バカ!ナナメに気付かれるだろ。」 思いの外私を驚かせてしまった事に戸惑った様子で、原口は落ち着けのジェスチャーをして宥めてきた。 私は呼吸を整え座り直すと、ギロッと睨む。 「バカはどっちだよ。もうとっくにナナメに目付けられてるから。」 「あ、マジだ。めっちゃこっち見てるわ。」 この小声のやり取りすら、もう完全に視認されている。 私達にナナメと呼ばれている化学教師の佐藤先生は、片手で教卓にもたれ身体を斜めに傾け、もう片手に持った教科書を読み上げているところだった。 今はその体勢で教科書に顔を向けたまま、目だけで私達を鋭く睨んでいる。 不自然に黙ったナナメの視線を辿る様にして、クラスメイト達もこちらに注目し出す。 その中に一際険しい優里亜の顔を見付け、背中を冷たい汗が流れた。 気まづい静寂。 私の方に身体を向けたままフリーズしている原口の脇腹を肘で突っつくと、彼は態とらしく咳払いをし「すんませんしたー。」と姿勢を正し座り直した。 クラスメイト達が興味を失い視線を前に戻す中、優里亜だけは何か言いたげにこちらを見続けている。 言いたい事は分かっている。 だから、後でたっぷり言い訳させて欲しい。
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