日常から

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日常から

「俺は一汁三菜じゃなきゃ嫌なんだ!」 「聞いてないけど」 「あたりまえ。今初めて言ったんだし。」  は?意味が分からない。何怒ってんの?  仕事で疲れてるとか、言い訳きかんし。 「今日さぁ、 帰りにスーパー寄ったらさぁ、  いつも100円のパンが68円だったんだよ!」  買えばよかったじゃん。 「買おうと思ったら、おばさんが欲しそうだったから譲った。」  ふーん。いいとこあるじゃん。 「そのおばさん、お礼も言わなかったんだ!!  最後の1個を譲ってやったんだぞ! 68円だったんだ!」  譲ってやった? で、68円がおしかったのか?  それであおりをくったのか……  知らんよ、そんなん! ほんとに意味が分からない。 いつかはこんなことを言っていた。 スーパーの入り口に、枠をはみ出して止めてあった自転車を 蹴り倒してやった と。 こんな怒られ方もしたっけ。 結婚して引っ越して、働いていなかった私に、 「なんで働かん奴に食わせないかんのだ!」 パート探すし…… そんな怒鳴らんでも…… そもそもこの結婚は、誰かの扶養に入りたかったのが決め手。 いわゆる心の病でまともに働けず、自分で生活をしていくことに疲れてしまっていた。 結婚相談所の「入会金無料」につられて入会。 最初に紹介されたのが今の夫だ。 こちらはなかなかカップル成立とはいかず、もうこれで最後と言われていたらしい。 振られ続けたバツイチ50歳と、誰かに頼りたいバツ2の私、42歳。 お互い、相手に優しくなるのは当然。 すぐに結婚を決めて、紹介所へ連絡した。 紹介所の方々に祝福されて、幸せだった。 嘘じゃない。 今回は大丈夫だと思った。 実家の父や姉は心配していた。 「おまえがいいならいいけどな…  」 夫の実家では歓迎された。 向かう電車で、近くの客たちが騒がしいと、 「妻は体調がよくないので静かにしてほしいんですが」 なんて、気遣ってくれた。 よかったんだ、と思った。 小さな音に敏感な私が、テレビの大きな音が気になって、 音を小さくして欲しいと言ったら、ヘッドホンをして観るようになった。 優しいとこあるじゃん。 マンションの15階から、狭いエレベーターに自転車2台のせて、 おりたら2人で20分かけてお買い物へ。 自転車好きで、私にはよくわからないブランドものを5台、 1部屋に大事に置いているだけあって、嬉しそうだ。 いい感じの夫婦じゃん。 生のイカを買ってきて、捌いてといったら、 刺身と塩辛にしてくれた。 「楽しかった!」 と笑顔。 いい感じなんじゃない? でもさー 「ちょっとうるさいから静かにして」 なんて、言ってしまうと、           バーーーン!!! こぶしが壁に穴をあけた。 キレられた。 次の日、私は、紙に平和になりそうな、幼稚な花の絵を描いて、 壁に貼ってみた。 「貼ってくれたんだ。」  笑顔。 何だろう?自分、キレたよね?壁、殴ったよね? やつの気がしれない。   あの時はなんで喧嘩になったんだろう…… 私の一言が原因か? 何を言ったか、言われたか、よくわからないが 立っていた私に飛びかかってきた。 「う………ぅ……」 やつの両手が私の首で力を入れている…… 「いかん!だめだだめだ!」 やつは自分から手を離した。 急に冷静さを取り戻した。 「………」 驚いて声が出なかった。怖かった。 でも、私はやられたらやりかえす。黙ってはいない。 大事な大事な自転車のお部屋に行って、思いっきり蹴ってやった。 やつが、慌てて私の部屋に入っていったと思ったら、 私の大事なぬいぐるみを持って、玄関から出ていってしまった。 離れて暮らす娘との、大事な思い出のある特別なものだ。 「早くとりに行けよ!」 にやつきながら、道路に落ちた何かを指している。 15階から道路に投げやがった! 私がどれだけ大切にしているか知っているから、外に捨てやがった! 悔しい。悔しくて仕方ない! 泣きながら取りに走った。 でも、マンションのオートロックを開ける鍵は、ちゃんと持って出た。 以外に冷静だ。 ぬいぐるみをしっかり抱いて戻ってくると、 普通にテレビを観ているやつを無視して、 110番通報した。 「警察呼んだ。」 「いいんじゃない?2人じゃおさまらないだろ?」 すぐに警察がきた。 男性警官が2人。 「奥さんもやり返したんでしょ?」 は?命にかかわることされたんだけど? 「今日は実家にいったら?」 は?もう24時近いんだけど?実家も何事かと思うでしょ? でもここにはいられないっか…… 何だかんだ色々言われて、それが如何にも心を病んでる人に、 丁寧に接しています 風な感じで、 やつが喋ったんだ。妻は手帳を持っていますと。 「近くに住んでる娘のところに行きます。」 そう言って、外へ出ていくと、どこまでも警察官がついてくる。 「旦那さんがね、心配だから電車にのるまでついて行ってくれないか  って言われてね。」 うーん。やりそうなことだ。私が不安定で、自分は優しい、と。 普通にテレビを観ている様子が想像できる。 壁の穴、みてもらったら? 確か、私の通院に付添いで来たとき、先生は私にこっそり言ってた。 「旦那さんも、なにかありそうだねぇ」 パン1個で怒るような人だから、そりゃ何かあるわ。 警察官がうっとうしくて、余計不安定になる…… 「ここで大丈夫です」 電車に乗り込んだところで、やっと安心できた。 とりあえず、娘のところにいくしかないな。 深呼吸できた。    
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