翌朝から

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翌朝から

ガタガタ…… 「いってきます」 朝だ。やつは仕事に行ったんだ。 私が帰ってきたこと、気づいてた…… ふぅー 夜まで1人だ! さて、テレビでも見よう! 何か食べようかな? もう1回寝ようか…… 以外に普通だな、私。 今、何時だろう? 電話がなっている。 「もしもし」 「こちら、警察です。奥さんですか?」 「は い 」 「もう落ち着かれましたか?」 「は い ?」 昨日のことで電話をしてきたようだ。警察ってフォロー電話なんかかけてくるんだ。初めて知ったわ。 何を話したかよくわからない。私はいつもこんなんだ。 都合のいい耳と口をもっているらしい。 「はい はい はい……」 適当に切った。 やっぱり、いかにも丁寧に話しています 風だ。 病んでるからって、そういうのはよくわかるんだって! でも 障害があるからって 卑屈になっているのは私なんだよな…… 警察って意外と対応いいじゃん! と、前向きにとれないのが私なんだよな…… こんなことを考えていられる平和な時間は、あっという間に過ぎてしまった。 そろそろ戦いの時間が迫ってきた。 自分の部屋の入り口横に置いてあった、本棚の向きをかえて、 ドアをめいっぱい開けられないようにした。 「ただいまー」 帰ってきた。私の部屋のドアを開ける。 「昨日帰ってきたんだね。向こうに泊まると思ってたよ!」 普通だ。普通に笑顔だ。 半分開いたドアから見えたやつは、優しくて怖い。 そのままリビングにむかうやつから少し間をおいて、 私はリビングに行った。 さて、話し合いをしないといけないんだな。面倒くさい。 「やっぱり無理なんだよ」 「私の病気のこと、受け入れてくれるっていったよね?」 「そう思ってたけど、やっぱり違ってた。想像と違うわ。無理」 今回の警察沙汰よりも前から、とは言っても結婚して約3か月だが、 この間に何度も些細な喧嘩をしては、私は手に傷を作っていた。 自分で作成したものだ。 病み始めて10数年もたつと、数えきれないほどの傷跡が、 勲章のように残っているのも気にならなくなる。 上書きしても、何も絵面は変わらないのに、作成したくなるものだ。 「自分に刃物を向けるってことは、誰か相手にも向けるよな!」 「それは絶対ない!痛みと血で、やり場のない気持ちを落ち着けるんだか ら。他人を傷つけても自分は痛みを感じないでしょ?だからしない」 「そんなのわからんって!こわっ!無理」 わかってもらえるはずがない。 やつは私じゃないんだから。私もやつのことは全くわからない。 涙が出てきた。泣けばいいとは思っていないが、泣いてしまった。 やつは普通だ。大きな声を出してはいるが、にやつきながら話す、 その感じは、やつの普通と変わりない。 やっぱりだ。大丈夫じゃなかった。 頼れるのは実家だけ。 ごめん!ほんとにごめん! そう思いながら、実家に電話をかけた。
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