終わりへ

1/1

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

終わりへ

「離婚届もらってこないとなぁ」 「明日、もらってくる……」 「ああ」 はぁ  何とか終わりにむかいそうだ。 何もされなくて良かった。 自分がこんなんだから悪いんだ。 病んでいなかったら、もっとお金持ってたら、やつを受け入れる余裕があったら、 やつが私を理解してくれたら、怖い面がなければ、にやついたりしなければ、パン1つで怒らなければ、こぶしが飛んでこなければ、 それくらいでいい。 全部やつのせいでいい。  2回も3回も同じだ。 これでいい。 朝になると、早速役所にいき、紙をもらってきた。 何度みてもペラペラだ。 婚姻届もペラペラだが、これは更に薄い気がする。 まさに、脆い夫婦を表すような紙切れだ。 婚姻届は2人で、幸せです!を振りまきながら、汚さないように、やぶれないように、 丁寧に出したもんだ。 離婚届は書いてさえあれば、まあいい。 きっと世の中そんなもんだろう。 うちに帰ると、さっと自分のところを書いた。 慣れたものだ。憂いも何もない。 悲しさもない。寂しさもない。 さあ、もう怖くなくなる! 爽快だ! 「ただいま」 優しい声だ。気味が悪い。 「紙、もらってきたから書いて」 「うん、わかったよ」 普通だ。本当に怖い。 次は何? 足が飛んでくる? やつに凶器はいらないだろうから、 その手が、その口が、その目が、 恐怖でしかない。  やつは紙を完成させて、静かに渡してくれた。 「私が明日出しとく」 「うん、よろしく」 私は逃げるように、自分の部屋に入った。 こんな普通? 何だか平和。 離婚、するんだよね…… とにかく、やつに破られたりしないように、 明日まで隠しておこう。 1つ、無事に前へ進んだ。 翌朝、また元気な声が聞こえた。 「おはよー。いってきます」 うーん、優しい。 確かに出会った時は優しかった。 みんな最初は優しいんだった。 そんな当たり前を忘れてた。 だから、結婚してしまったんだ。 お互い様だ。歩み寄れずに終わりだ。 私は役所が開く時間に合わせるように 家を出て、ささっと出してきた。 よし。さあ、帰ろう。 まだ、やつが帰ってくるマンションへ。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加