自立へ

1/1

10人が本棚に入れています
本棚に追加
/8ページ

自立へ

マンションへ帰ってきた。 今すぐ、さようなら、といきたいところだが、荷物をまとめて引っ越ししないといけない。 すぐに引っ越しの手配をした。5日後だ。 なかなか早い。 でも、5日間はここにいないといけない。 留守にして、やつがここに入るのは絶対だめだ!触るな!捨てるだろう?やめろ!! とにかく落ち着いて、今後を考え始めた。 実家にいつまでも居るわけにはいかない。 私の部屋はないんだ。 以前母が使っていた部屋を使わせてもらう予定だ。 姉も良くは思わないだろう。 今までろくに寄り付かなかったのに、 おいてくれ、なんて、身勝手な話だ。 自活するには、働かなければ。 当然だ。 何か資格をとろうか? まあ、単純な考え方だ。 車! ここに来るときに売ってしまった。 でも実家あたりは車がないと不便だ。 中古車探さなきゃ! 次から次へ、よく考えることがあるものだ。 さっき姓を戻したばかりなのに、 落ち着いている。 頭は冷静すぎて、私って素敵。 やはり3回目は慣れたものだ。 元夫が帰ってきた。 「ただいま」 優しい言い方。 「出してきたよ」 「そっか。離婚したんだね」 「引っ越し屋さん頼んだ。5日後だから」 「わかった。いいよ」 「何か優しいね。ずっとそうだったら、  別れなくて良かったのに」 「だってあと5日でお別れだろ?最後くらい優しくしないとね!」 そうなのかぁ。 妻には冷たいってことかぁ。 前の奥さんにはどうだったんだろう? 詳しくは聞いてなかったな。 ただ、奥さんのが稼ぎがよくて、うまくいかなくなった、とか何とか。 だから、働かない私に食わせるなんて!って 怒ってたんだよな。 ちっちゃいやつだ。そういうやつだ。 そんなやつに、頼った私も、どうしようもない人間だった…… 引っ越しまでの5日間は、穏やかだった。 優しい元夫。 新婚生活が今から始まるような、 不思議な穏やかさだ。 その優しさは、嘘ではないだろう。 でも妻へは向けられることのないものだ。 やつが、結婚という形を望むのなら、 いつまでも持っていても仕方のないものだろう。 始めから終わりまで、冷たい、怖い、それだけのやつでいればいい。 引っ越しの日、やつはこう言って仕事にでかけた。  「帰ってきたら、いないんだろ?  じゃあな!ありがとう!」 さようなら。 私は、たった3ヶ月の結婚生活を終えた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10人が本棚に入れています
本棚に追加