お迎えに行きます

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お迎えに行きます

いったいいくつだろう。 私は数々の命を奪ってきたんだ。 きっと、、、。 いや、後悔はない、確かにその行動に苦しみはあった。 歯止めもあった。  だけど、そうしてきた事は間違いではないと。 だから私は今日最後の任務を遂行した。  町の住人が寝静まったころ、 一人の人間が素早く走る。 すらっとした体は屋根の上を走るにはとても見合っていた。 向かう先には大きな建物。 そこへ潜入して、ある部屋へ。 とてつもない大金持ちの高層な建物。 皆がうらやむほどのきれいなお屋敷である。 明かりのついた廊下をなれたように進んでいく。 大きな扉を開けた先に大きな机と、扉、扉、扉と扉が三つ並んでいる。   その中から一つの扉を開けるのに躊躇はなかった。  その先には大きなベッド。 そして、男は立ち向かうように、前に立っていた。  「だ、誰だ? 何者だ!!」 手にはナイフ。  ためらいはない。 下にいる者たちを呼ばれては厄介だ。 呼ばれる前に、ことをすます。 それは一瞬あれば十分。 男の首は宙を舞うと、月明かりにその者の姿が照らされる。  仮面をつけ、外見がわからないように身を包んでいる。   そしてそのまま大きなテラスへと一直線にでると、闇夜へ姿を消す。  「ご主人様、 おはようございます。 起きてくださいませ、  ご主人様!」  優しい声の主はじぃ。もう何年もこの居城に務めている御付役だ。  これがここの主の日常だ。  主人は外を見る。 「ここも時期、終わる……」    じぃは悲しそうな顔をする。 「そうですね。 ですが、主様。 我々がいます。 あなただけは何があってもお守りいたします」 「いいえ。 かまわない。 私たちはただの時間稼ぎでしかないのだから」  主は眉一つ動かすことなかった。  この国の政治はすさんでいて、こうなる前までは国民の為と、注力していた者が選挙というルールを強いて、取り決めを行ってきた。 だが、時の流れとともに、自由という言葉の元、彼らに有利な状態になるように世界は変わっていった。 仕方がない。 取り決めも何も、そこが行うのだから。 後で知った時には、出来レースになっていて、彼らの組織以上に団結しなけらば勝てない。  欲を持つ人間にはその欲には勝てない摂理の元、人の幸せを願った者たちは、自身の幸せとなんでも叶う至福を守るために、共食いを始めだす。 いつの時代も同じことをする。  その幸せは貧しい人から騙し取ったものでできている。    だから、陰に身を潜め掃除しなければならない。守るためにはこうするしかすべがないのだ。 「失礼します。 主様、お食事の用意ができています」  部屋い入ってくるメイド。 ずっと主のそばに長くついていた専属ほどの女性だ。  何かあると絶対主は彼女に頼ってきた。 そして彼女は必ず、それに答える。それぐらいお互いが、信用した中なのである。  二人は微笑みを交わすと寝室を後にした。   報道が目に入る。 弾圧をかけていたトップがいなくなったことで、民衆に差別的暴行を行っていた規制に、緩和が入る法案が可決に向けて動きそうだという報道である。  その報道を嬉しそうに見つめるじぃ。 「主様! またお口の周りについていますよ」  そのメイドは、すぐさま純白な絹のハンカチを取り出し、優しく口回りを葺いた。 「もう、私は子供じゃないんだけど」 「なら、口回りを汚さずにお食べください」  主は何も言い返せなかった。正論だからだ。  「お二人はいつも仲つつましいですね」  食事を運びながらじぃは、幸せそうな顔を浮かべていた。   「ば、ばか。 別にそんなんではない。 彼女がいつも過保護なほど面倒を見てくれているだけだ」  主は照れていたが、その様子をメイドは楽しそうに見ていた。 「えぇ、私が手を焼かなければ、おひとりではなかなか、、、」 「う、うるさい。 そ、そんなことはない。 私だって、お前がいなくてもな、何でも一人でできている」  主の必死になるところは子供っぽく、これを見るのがメイドの楽しみでもあった。 「あら、また、そのように顔を赤められて。申し訳ございません。 主様のそのような表情を見たくてつい。 お戯れが過ぎました。 お許し下さい。 さぁ、お口の周りを失礼します 」  メイドはそういうとまた、丁寧に拭く。 「はっはっは、まるで幼馴染のような光景ですな。それでいて彼女の過去を知らないのですから。この信頼関係はいったいどこから」 「あぁ、彼女の過去はみなまで聞かないさ。 じぃも、彼女がどれだけ大変だったか、彼女が孤児でいた事を知っているだろ? たまたま出会ったからうちに来てもらっただけで、彼女は大事な一員さ。 自分から言いたくなった時が来るのなら、その時だけだろうと思っているよ」 会話を聞くやメイドが話に入る。 「何をおっしゃられますか。 私の命を助けてただいたのは主様です。 来てもらったなど、私が行為に甘え、おいてもらっている。が正しいです。 私などココの一因になんて恐れ多いです。 でも、とてもうれしいお言葉です」 「あ、そういえば、彼女はいつも遅くまで、剣術、体術、銃術と訓練にいそしんでおられるようで」 「なぁ、じぃ! なぜそれを」  じぃは、この時こそ報告のチャンスと、温めていた話を語り始めた。それに対しメイドが慌てだす。 「ほっほっほ。 なんでもお見通しじゃよ。 わしを誰だと思って居る。 この家すべてを把握しているものだぞ。  夜も寝ずそれは、一生懸命に。 だから今や、彼女に敵う者がおりませぬじゃ」 「そうか、 だけどちゃんと寝なければ、無理してないか? 倒れてしまっては大変だ」 「じぃ! 余計なお言葉を  主様。これも、しっかりと主様をお守りする為のことで。 私は無理などしていませんので、どうかお気になされないでください。 努力しているところを見られるのは、その、とても恥ずかしいのです」  メイドはいつもこっそりと一人励んでいることを知られていたと、赤面してしまった。 「その気持ちはうれしいが、それで倒れてもらっては私も心配だ。 だから、ちゃんと寝てくれ」 「えぇ、かしこまりました。 ありがとうございます」  とても暖かい家族のような絵。  部屋が一瞬ぴりつく。 「あなた様は何があっても殺させません。 何人たりとも。それでは失礼します」  部屋が静かになると、メイドは空気を察するように部屋を後にした。 「お二人は本当に、信頼しきっているようで何よりです。 彼女も本当に貴方様を守りたいのでしょうね。 あれは相当の想いですよ」  だけど、そんな楽しい時間の余韻を、少し味わっている時間も与えてはくれない。 「じぃ、そろそろ準備を。 お迎えが来る頃だろ。 後、他の屋敷にいる者達は全員逃がしてくれ。 彼らまで消える必要はない」 「かしこまりました。 ですが私は、あなた様のそばを離れるつもりはございませんので、悪しからず。 皮肉なものですね、世の中の為にした代償があまりにも大きすぎる報復に代わるなど」 「誰も真実を知ろうとする者は少ないさ。 こんな世界ではなおさら。 少しでも虐げられた人が、暮らしやすくなったのならそれでいい。 後は、またこの世を生きる者に委ねるよ」  じぃは部屋を後にした。 言いつけを守るために。   主はじっと窓の外を眺めたまま、動くことはなかった。  メイドは武装をして部屋を後にした。 屋敷から荷物を持った人が沢山出てくる。 だが彼女だけは流れに逆らって歩いていく。  彼女には、固い決意と命を引き換えにしても守りたいことがあるから。こんな時代にただいまれない怒りを感じていた。 こんな世の中だ。 何が起こるかなんてわからない。 だけど大切な人は何が何でも守りたかった……。 彼女の家は裕福で、いつも幸せな家族に包まれ、至福の時を送っていた。 何でも許され、何でも叶う。不幸などないほどに。  ただ、彼女の両親が殺されてから、その幸せはすべてが彼女の前から消え去った。なんでも許してくれるすべてを失ったのだ。  いや、彼女にとってはそれはどうでもいことだ。 ただ、かけがえのない大切な人を失ったこの感情は、消えることはなかった。  最初は強盗なのだと、親からはいつも、我々は人間に妬まれ、奪われる存在だから気を付けないといけない。 だから強盗や、人に気をつけなさいと。 人を信じてはだめだと何度も聞かされていた。   だけどそれは年端のいかない者の目からでもわかった。 何も荒らず、何も取らないで、すぐに家を出た黒ずくめで覆われた謎の人物は、ただ、両親の命だけを持って行ったのだと。  許すことなんてできない。彼女はずっと思っていた。 訳もなく自身の私欲で、楽しそうに暮らす人達を殺しまわる殺人鬼を、いつか、必ず報復しに向かうと。  彼女はそんな悲惨な過去を持ち、孤児でいた時、主に迎え入れられこの屋敷にやってきた。 それからずっとここで働いているのだ。そして感じた。 ここはあの時のなんでも許してくれるようなそんな優しい場所だった。  だから彼女は信念に燃えた。 たとえこの命付きようとも、誰にも殺させない。 しっかり武器を握りしめながら。目的を果たす為。  メイドは主の部屋の扉を開ける。 「来たか……」  主はまだ、窓の外を見たままだった。 「はい、『お迎え』に上がりました」 そして後にしてじぃは膝を落とすのだった。
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