6 新じゃがのポテトサラダ

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「え?なに……」 「やっぱり実家の味には敵わないか〜って思っただけ」  体勢を戻しあっけらかんと言い放つ。思っていたよりダメージはなさそうだ、切り替えの早い男で助かる。 「別に……美味しいってば、三田村が作ったやつ……」 「……」 「面倒くさい奴だな……」 「どうせオレは面倒くさい奴ですよ!」 寄り掛かるなよ!重い!」  切り替えは早かったのに面倒くさいし重い。  香川の肩に頭を乗せていた三田村は、重い重いと連呼した事でようやく頭を外してくれた。 「……レシピ聞いといてよ、作るから」 「いいよ、別に……」 「作るって、完璧に再現出来るか分からないけど」 「だからいいって」 「……」  強く言ってしまったのがいけなかったのか、三田村は黙り込んでしまう。  そうじゃなくて、ちゃんと伝えたくて言葉を選びながら口を開く。 「あー……だから……レシピ聞いたらお前それ作るじゃん……」 「そりゃ、作るよ」 「……お前のポテトサラダじゃなくて、実家のポテトサラダ作るじゃん……だから……いいよ、オレは……お前が作ったやつが食べたいし……」 「オレのがいいの?」 「……うん」  だからそう言っているではないか。  確認するように聞かれると恥ずかしい。  面倒くさいし重い男は嬉しそうに笑ってまた体重を掛けてきた。 「そっか、そっか……」 「……だから重いって言ってんじゃん……」 「うん、重いって知ってるだろ?」  ドヤって言う事でもないだろう。二重の意味で知ってるけれども。  三田村は自動販売機と同等の身長なのだから、それなりに体重だってある。それに比べてオレは平均身長なんだから、寄りかかられたら重いって分かれよ。  睨みつけても効果はなさそうで、三田村はヘラヘラ笑ったままだ。酔っている訳でもないのに上機嫌だ。 「どんな味なの?ポテトサラダ」 「ん〜……何かほんのり甘いんだよね」 「甘い?うーん、何だろ……砂糖でも入ってるのかな」 「たぶん」  レシピを聞いてくれとはもう言わなかった。 「実家帰った時に作って貰うよ」 「最近帰んないじゃん、あまり」 「そうだな……そろそろ……お盆辺りに帰ろうかな」 「そうだな、そうしろよ、帰ってきてほしいんじゃん?親も」 「そうかなぁ……」  たまに電話はするから、帰っていないと言っても疎遠になっている訳では無い。じゃがいももだが、米なども送ってくれるし。  二、三日ならいいか。三田村と一緒に住み始めてからは実家へ帰る日数も減っていた。 「……何か実家の味が懐かしく思えてくるな……今は三田村が作ったのがオレの家庭の味になりつつあるよ」 「……うん」  三田村の手が伸びて、頬に軽く触れる。直ぐに離れた手のひらを目で追うと名前を呼ばれた。 「香川」 「……」  思ったより至近距離に三田村の顔があって驚く、身を引こうとしても狭いソファーなので逃げ場はない。  だが、何か仕掛けてくるかと思った三田村は何もせず顔を引くと、そのままビールを飲み始めた。  呆気に取られたまま、香川もビールに手を伸ばす。 「……何かさ……じんわり嬉しいんだよね、このままキスする流れかなって思ったけど、なんて言うか衝動的にさ、キスしたい!っていうのじゃなくて……じんわりだったから違うかなって」 「……」 「ははっ、分かんないって顔してる」 「……」 「キスしてほしかった?」 「それはない」 「夜にね」 「……昨日したじゃん」 「キスは毎日してもいいだろ?」  まぁ、キスだけなら。  テーブルの上の料理は粗方食べ終わってしまった。ビールもあと一口。 「ふぁ……」 「昼飲みして、そのまま昼寝コースなんて最高じゃんね」 「……そうだな」  三田村がふわりと笑う。  こいつの言いたい事が何となく分かった。  衝動的じゃなくてじんわり嬉しい。  ふわりと笑う三田村の表情がそれを教えてくれた。 「ここで昼寝しちゃおうか」 「そうだな、香川」 「ん?」 「寄り掛かっていいよ」 「……うん」  片付けをしてからの方がいいのは分かるが、目を閉じて三田村に体重を預ける。  隣に感じる温かな体温はいつでも安心をくれる。  確かに昼飲みからの昼寝はサイコーだ。  微睡みの中、三田村が呼んだ気がしたが、返事はできなかった。 完  
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