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「え?なに……」
「やっぱり実家の味には敵わないか〜って思っただけ」
体勢を戻しあっけらかんと言い放つ。思っていたよりダメージはなさそうだ、切り替えの早い男で助かる。
「別に……美味しいってば、三田村が作ったやつ……」
「……」
「面倒くさい奴だな……」
「どうせオレは面倒くさい奴ですよ!」
寄り掛かるなよ!重い!」
切り替えは早かったのに面倒くさいし重い。
香川の肩に頭を乗せていた三田村は、重い重いと連呼した事でようやく頭を外してくれた。
「……レシピ聞いといてよ、作るから」
「いいよ、別に……」
「作るって、完璧に再現出来るか分からないけど」
「だからいいって」
「……」
強く言ってしまったのがいけなかったのか、三田村は黙り込んでしまう。
そうじゃなくて、ちゃんと伝えたくて言葉を選びながら口を開く。
「あー……だから……レシピ聞いたらお前それ作るじゃん……」
「そりゃ、作るよ」
「……お前のポテトサラダじゃなくて、実家のポテトサラダ作るじゃん……だから……いいよ、オレは……お前が作ったやつが食べたいし……」
「オレのがいいの?」
「……うん」
だからそう言っているではないか。
確認するように聞かれると恥ずかしい。
面倒くさいし重い男は嬉しそうに笑ってまた体重を掛けてきた。
「そっか、そっか……」
「……だから重いって言ってんじゃん……」
「うん、重いって知ってるだろ?」
ドヤって言う事でもないだろう。二重の意味で知ってるけれども。
三田村は自動販売機と同等の身長なのだから、それなりに体重だってある。それに比べてオレは平均身長なんだから、寄りかかられたら重いって分かれよ。
睨みつけても効果はなさそうで、三田村はヘラヘラ笑ったままだ。酔っている訳でもないのに上機嫌だ。
「どんな味なの?ポテトサラダ」
「ん〜……何かほんのり甘いんだよね」
「甘い?うーん、何だろ……砂糖でも入ってるのかな」
「たぶん」
レシピを聞いてくれとはもう言わなかった。
「実家帰った時に作って貰うよ」
「最近帰んないじゃん、あまり」
「そうだな……そろそろ……お盆辺りに帰ろうかな」
「そうだな、そうしろよ、帰ってきてほしいんじゃん?親も」
「そうかなぁ……」
たまに電話はするから、帰っていないと言っても疎遠になっている訳では無い。じゃがいももだが、米なども送ってくれるし。
二、三日ならいいか。三田村と一緒に住み始めてからは実家へ帰る日数も減っていた。
「……何か実家の味が懐かしく思えてくるな……今は三田村が作ったのがオレの家庭の味になりつつあるよ」
「……うん」
三田村の手が伸びて、頬に軽く触れる。直ぐに離れた手のひらを目で追うと名前を呼ばれた。
「香川」
「……」
思ったより至近距離に三田村の顔があって驚く、身を引こうとしても狭いソファーなので逃げ場はない。
だが、何か仕掛けてくるかと思った三田村は何もせず顔を引くと、そのままビールを飲み始めた。
呆気に取られたまま、香川もビールに手を伸ばす。
「……何かさ……じんわり嬉しいんだよね、このままキスする流れかなって思ったけど、なんて言うか衝動的にさ、キスしたい!っていうのじゃなくて……じんわりだったから違うかなって」
「……」
「ははっ、分かんないって顔してる」
「……」
「キスしてほしかった?」
「それはない」
「夜にね」
「……昨日したじゃん」
「キスは毎日してもいいだろ?」
まぁ、キスだけなら。
テーブルの上の料理は粗方食べ終わってしまった。ビールもあと一口。
「ふぁ……」
「昼飲みして、そのまま昼寝コースなんて最高じゃんね」
「……そうだな」
三田村がふわりと笑う。
こいつの言いたい事が何となく分かった。
衝動的じゃなくてじんわり嬉しい。
ふわりと笑う三田村の表情がそれを教えてくれた。
「ここで昼寝しちゃおうか」
「そうだな、香川」
「ん?」
「寄り掛かっていいよ」
「……うん」
片付けをしてからの方がいいのは分かるが、目を閉じて三田村に体重を預ける。
隣に感じる温かな体温はいつでも安心をくれる。
確かに昼飲みからの昼寝はサイコーだ。
微睡みの中、三田村が呼んだ気がしたが、返事はできなかった。
完
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