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3 想いの名前
「オレ達ってさ、なんか全然恋人らしくないじゃん?」
ソファーに隣同士で座りながら、三田村がこちらに顔を向けて言った。
正面にはテレビ。クイズ番組が流れていて、オレは三田村の発言よりもクイズの内容に気を取られ返事が遅れてしまった。
パネルに映っている寺院の名前は?
えーと、何かこれ見たことある、橋みたいなので繋がってるとこ……紅葉の時によくテレビに出てくるし、CMにもならなかったかな……何だっけ、福がついた……気がする。
「え?あぁ……うん?」
「あれ、東福寺な」
「あ!そうそう、行ったことある?」
「子供の頃家族旅行で」
「へぇ……」
「でね、香川」
仕切り直すように、三田村は改まった声を出した。
「うん」
「それってさ、お互い名前で呼んでないからじゃないかって思ったんだよ」
「あぁ…………そうか?」
「そうだよ、恋人になってもう一年経つし、一緒に住んでるんだし、名前で呼んでもおかしくないと思うんだけど」
「あぁ……うん、そっかぁ……?」
「そう」
「そう……」
「うん」
三田村想は楽しそうに笑った。
「佑真」
初めて名前で呼ばれた。
何だか心の中がくすぐったくて、落ち着かない。オレは三田村から視線を外すように、再びテレビに顔を向けた。
「正解は東福寺でした!」
MCのお笑い芸人が答えを発表している。テロップにも東福寺と出ていて、VTRにはオレンジや黄色、朱色のグラデーションに彩られた渓谷に掛かる橋が流れている。その橋には偃月橋・通天橋・臥雲橋と言う名前が付いているそうだ。初めて知った。
「佑真」
「……なに」
ちらりと三田村を見れば、ソファーの背凭れに腕を掛けこちらに身を乗り出してきた。
近付いてきた顔に、慌てて距離を取る。
「名前で呼ばれるの嫌?」
「べつに……慣れないだけ……」
「初めて呼んだしね」
目を細め、愛しいものでも見つめるような表情はいつもの三田村で、その対象が自身なのは何となく慣れたものの、恥ずかしいという気持ちは中々消えてくれない。
「呼んでよ」
甘えるような声。
ここで恥ずかしがったらからかわれるか、呆れられるか、それとも。
「そう」
「……短くなっていいでしょ?」
「そういう問題じゃない気がするけど」
半分以下にはなったけど、短ければ呼びやすいというものでもないだろう。
「例えばさ、お前の家にオレが行ったとするじゃん」
「うん」
「みんな香川だから、名前で呼ばないと誰の事だか分からなくなるじゃん?」
「……」
例えの状況になる日が来るかは分からないが、オレの客が香川と呼べばオレの事になるだろうと言いたかったが突っ込むのは止めた。
「だから、練習だよ、日頃から呼んでおけば困らない」
「お前、オレの実家来たいの?」
「えっ?!」
三田村はオレの問い掛けに驚きの声を上げ、固まった。
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