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「い、行きたい……とは思うけど、行くのは……いや、いつかはご挨拶に伺わなくてはいけないのかとは思うけど……」
三田村は体勢を変えるように、腕を引っ込め手を膝に置き、ごにょごにょ言い出した。
勝手に悩んでいるみたいだ。
「じゃあ、年末帰る時に一緒に帰る?」
「は?」
「友達連れて行くって言っとけば」
「え?香川??なにそれ?」
三田村は焦っているのか、早口で被せてきた。
「なにそれって、だから年末帰る時に」
「うん、そうなんだけど……そうなんだけど、そうじゃなくてさ」
「うん」
「一緒に行っていいの?」
「うん、一泊して帰るだけだし、どっか観光してく?」
「……え?オレほんとに行っていいの??」
「前にも友達連れていった事あるし」
「は?」
急に三田村の声のトーンが変わった。
「大学の時に」
「え?オレ知らない、誰だよ」
「……言わないだろ、わざわざ……」
ちょっと考えて今でも交友関係のある大学時代の友達の名前をあげた。
確か友達が夏休み中に名古屋でライブがあるので、隣県のうちの実家に泊まりにきたのだった。
「あぁ……そうなんだ……」
「友達って言えばいいし……連れて行っても平気だけど、どうする?」
付き合い出してからもオレは年末やGWなんかは帰省してて、その度三田村は引き留めないけど寂しそうな顔をするから。
「お前の家に迷惑掛からないなら……年末じゃなくても別の時でもいいけど……」
「うん、年末……29、30日で帰ったりなら平気じゃないかな、お盆休み帰らなかったし、年末は帰ってこいって言われてるしさ……」
「それならオレ行かない方がよくない?」
「んー……でも次って言ってもいつか分かんないし……三田村が嫌じゃないなら……」
「嫌じゃないよ、むしろ香川家の味を知りたいからいつか行ってみたいとは思っていたし」
「そっか」
「……つーかさ、もしかしてさ、大学の時にオレもお前の家行きたいって言えば連れていってくれたの?」
「うん、別によかったけど」
「……なんだよ……じゃあ、言ってみればよかった……」
あー、惜しい事した……って言いながら三田村は項垂れた。
そんなにオレの家に来たかったのか?
何もないぞ?
東海地方の平凡な田舎、とまではいかないけど地方都市っていうのかな。そんなだぞ。温泉とか山岳地帯なんかはあるけど。
「じゃあ、友達連れていくって言っておくよ」
「……いいの?ほんとに……」
「うん」
三田村は探るような目で見てくる、でもそれは心配そうとも言える。
流石にまだ家族に男の恋人が出来た、とは言えないけど……友達としてなら紹介出来る。
大学時代から隣に住んでいた事もあり、三田村の話はした事があった。そもそも今一緒に住んでいるというのは伝えてある。だから。
観光、そうだ、行きでも帰りでも名古屋城とか行ってみるか?あの辺商業施設みたいの出来てから行ってないしな。金シャチ横丁だっけ。
「お前が心配するような事はないよ……恋人って言えなくて悪いけど……」
「それはいいよ!むしろ、そうなった場合の心の準備が出来てないっていうか……」
「うん、オレもその準備は出来てない……だから、まぁ……観光ついでって事にしてさ……一緒に行こうよ」
「そうだな」
漸く安心したのか、三田村は柔らかい笑顔を浮かべた。
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