4 おやすみはまだ言わない

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4 おやすみはまだ言わない

 スマホが小さく震え、画面を見るとメッセージの表示あり。三田村はそれだけ確認し、再び鍋に視線を移した。  今週は残業が多かった香川がそろそろ帰ってくるようだ。昨日よりは早い、早目に準備をし始めて正解だと内心胸を撫で下ろす。  いつも最寄り駅に着くと連絡をくれるので、これからバスに乗る所だろう。夕飯の準備は間に合いそうだ。  シンクの上に置いておいた素麺の袋から2束取り出し、沸騰した鍋の中へパラパラと入れる。  素麺がお湯の中に全て浸かるように菜箸でかき回し、スマホで時間を確認する。ここから2分、吹き零れないよう様子を見ながら茹でる。  冷凍庫から氷を取り出し、ボウルの中へ入れ、水切りのザルも用意しておく。  それから漸く、スマホのメッセージを確認。 「駅についたのでこれからバス乗る」  自然と三田村の頬が緩む。  OKと猫のスタンプを押して、冷蔵庫の扉を開ける。  自分の夕飯は済ませてある、香川にも同じものを出すのでおかずなどは冷蔵庫にしまってある。  素麺用の刻んだおくら、しそ、鶏チャーシューが一つのタッパーに入っているので取り出す。それと厚揚げも一緒に出す。  鶏チャーシューは昨日の晩、作っておいたものだ。30分位で出来るし、弁当のおかずにも重宝する。  鍋を見るとぶくぶくと白い泡が表面に溢れ、煮たっている。少し火力を弱めあと30秒。  鍋の隣に出しておいたフライパンに火を入れ、一口大に切ってある厚揚げを並べ、鍋の火を消す。  ここからは手早く素麺を水洗いして、氷水で締める。ザルで水を切り、一旦そのままにしてフライパンへと視線を移す。  菜箸でひっくり返せば、うっすらと焦げ目が付いている。それを全面繰り返し弱火にして蓋をしておく。  そろそろ帰ってくるかな、麦茶にしようか、それともビールでも飲むかな?  考えてから、自分のコップに麦茶を注いで一息つく。  帰ってきてから聞けばいいと結論付け、残りの作業に取り掛かる。  水を切ったそうめんを箸でつまみ上げ、丼の中へと移す。その上に刻んだおくら、鶏チャーシュー、上からしそと白ごまを振り掛ける。つゆはめんつゆ。帰ってきてから掛ければいい。  もう10分もしない内に帰ってくるだろう。  三田村の予想通り、7分後に香川は玄関のチャイムを鳴らした。
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