1 アイスキャンディーとエプロン

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 シャワーを浴びてリビングへ入ると、三田村はスマホ片手にソファーに寝そべっていた。着替えてはおらず、まだエプロン姿のままだ。 「香川、アイス食べる?」 「いいな、うん、食べる」 「うん」  ソファーから立ち上がると三田村はキッチンへ向かった。香川は空いたソファーの端に座り、肩に掛けていたタオルで頭をごしごしと拭き始めた。  長く息を吐き出し背凭れへ背中を預ける。シャワーを浴びたばかりなのでまだ体が熱い、三田村よりはましだと思うがハーパンツに上半身は裸のままだ。だがいつでも着替えられるようにと、ティーシャツは持ってきている。 「チョコのとオレンジどっちがいい?」 「オレンジ」 「はい」  そう言ってファミリーパックサイズの棒付きアイスを渡してくる。もう片方の手にはチョコアイス、それは自分で食べるようだ。  オレンジ色のアイスキャンディーは、ご丁寧に外袋を外した状態だ。 「ありがと」  受け取り早速アイスを舐める。  甘酸っぱい冷たい感触が舌に心地よい。  ちょっと柔らかくなった先端にかじりつけば三田村と目が合った。 「食べる?」 「いい、口の中で味が混ざる」  オレンジとチョコなら相性悪くなさそうだが、と思ったが言わんとする事は分かる。  ペロペロカジカジ。暫く二人共無言でアイスキャンディーを食べた。 「捨ててくるよ」  先に食べ終わった三田村が手を出してきたので身の無くなった棒を渡せば、ぺろりと棒を舐められた。 「うまい」 「おまっ……」 「捨ててくる」 「……お前な……」  にまにまと笑いながら、三田村はキッチンのゴミ箱へ捨てに行った。  気持ち悪い、とは言わないがどうかと思う。  エアコンの効いたリビングでアイスを食べていたので少しだけ体が冷えた。 「あ、着ちゃうの?」 「着るよ、お前も着替えろよ」  残念そうな顔の三田村は隣に座ると、着替えようとしていた香川の腕を掴んできた。 「……おい」 「もう少し」 「?!」  何がもう少しかと思っていると首筋に冷たい感触がした。香川の肩がびくりと揺れる。 「冷たい!」 「アイス食ったから」  至極もっともな事を言われ、納得をするもそうじゃないという気持ちが沸き上がる。 「みた……」  キスされるかと思い反射的に目を瞑ると、ぽすりとソファーへ押し倒されてしまった。 「おい!」  三田村に触れると肌はひんやりと冷たい。そりゃそうだ、ずっとこんな格好をしていれば冷えもするだろう。 オレがシャワー浴びている間ここに居たもんな。 リビングは程よく冷えている、もしかしたら。 「……寒いの?」 「お前なんでそういう思考にいっちゃうの?」  三田村の声は呆れていた。 「は?」 「あっためてくれるの?」 「何か着ればいいだろ、いつまでそんな格好してるんだよ、どこからどう突っ込めばいいのか分かんないよ」 「セクシーじゃない?」 「せめてトランクス止めてから言えよ」 「じゃあ、脱ぐ?」 「脱がなくていいよ、て言うか何か着ろよ、風邪ひいても知らないからな!」  上から退く気のなさそうな三田村に、下から押し返そうと腕を伸ばすがびくともしない。体格差が恨めしい、腕だって筋肉がついているしエプロンで隠れた腹筋はキレイに割れているのだ。力で叶う訳がない。 「ていうかオレ着替えたいんだけど」 「まだいいじゃん」 「オレが風邪ひいたらどうすんだよ」 「……じゃあ着てもいいよ」 「じゃあってなんだよ、はぁ……着るから退いてくれよ」
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