1 アイスキャンディーとエプロン

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「じゃあ寝ようか……まだ早い?」  明日は土曜日で仕事は休みとは言え、そろそろ日付が変わりそうだ。  隣に座った三田村は先程とはガラリと雰囲気を変えた。多分もうしないつもりだろう。  そういうつりもで言ったんじゃないんだけどな……。 「三田村……」 「ん?」 「……疲れてないし……全く疲れてないって訳じゃないけど……その……まだ寝なくても平気」 「うん」 「……ベッド、いこ……」 「うん」  俯いたままだったので三田村の腕が伸びてきていた事に気付けなかった。  横から肩を抱かれ引き寄せられる。あぁ、何だか恥ずかしいやり取りだ、なんて思ったのに三田村の一言でそんな甘い気分も消し飛んだ。 「何でベッド以外じゃ嫌なの?」 「……しつこいな……」 「気になるよ、無理には勿論しないよ?しないけど、したいから出来ない理由を知っておきたい、そうすれば我慢出来るし」 「……我慢て……別にベッドでもいいじゃん、同じじゃん……」 「同じじゃないから嫌なんだろ?」 「……」  それはそうなのだが。  隣を見れば裸にエプロンの三田村。そして上半身裸のオレ、でも何も始まらない。  恋人達はベッド以外でする事も多いのだろうか。でも大抵ベッドだろ?三田村はどこででも、なんて言うけど。 「お前は何で、どこででもやりたいなんて言うんだよ」 「えー……どこででもというより、いつでもしたいから、どこででもになる?っていう感じ?」 「……節操なしなんだな」 「お前が魅力的なんだよ」 「……」  逆効果だって分かっているのだろうか。多分分かっているけど、あえて、本気で言っているんだろう。そういう所は本当にバカだと思う。 「……恥ずかしい訳じゃないけど……」  三田村の腕を肩から外して投げ出されていたティーシャツを掴む。今度は邪魔される事なく着る事に成功した。 「お前も早く着替えろよ」 「どうせ脱ぐじゃん」 「……」 「どうしても言うの嫌なの?」 「……どうしてもじゃないけど……」 「言うのが恥ずかしいの?」 「そういうのじゃ……」  言うのが恥ずかしい、のかも知れない。あとそんな事でと思われるかも知れない、それよりもからかわれる可能性の方が高い。そっちの方が嫌だ。  むすっと黙り込めば、諦めるかと思ったが三田村はしつこかった。  さっきみたいにあっさり引けばいいのに、これに関しては譲る気はないようだ。  頬に当たる視線が鬱陶しくて、香川は大きなため息を吐いた。 「……言ったからってベッド以外でしないからな」 「分かってるよ、しない」 「……」  じっと見つめてくる瞳は優しい。  分かってる、言ったからと言って何かが変わる訳ではない。だけど、頭の中にある物を全部見せろと言われるのは躊躇う。
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