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「……するのは……嫌じゃなくて……」
「それはベッドじゃなくてもってこと?」
「場所の話じゃなくてな、うん、そう、でも……その、した、あと……一人になった時に、ソファーでしちゃったら次にここ座った時……ここでしたなとか……そういうの思い出すの……なんていうか……恥ずかしい……っていうか……ベッドなら別に……いいっていうか……」
続けるのが恥ずかしくてもにょもにょ言っていると横から抱きしめられた。
こうなるのは分かっていた、それもあったから言いたくなかったんだ。
「……一人になった時もオレの事考えてくれるんだ?」
どうしてそういう思考にいくのか。ポジティブ過ぎるだろう。
別にお前の事を考えている訳じゃなくて、いや、考えてない訳じゃないけど。そうなるのが嫌なのに。
嬉しそうな顔が近付いてきたので、慌てて両手でガードするが三田村はそんな事お構い無しでぎゅうぎゅうと抱き締めてきた。
顔だけ熱い、赤くなっていないか確認したいけどそれも出来ない。
「……ソファーでしちゃったら、ここでしたなって思い出すの嫌なんだ……?」
甘い声に揶揄が含まれていれば三田村の腹を思いっきり殴ってやるのに。
ただただ喜色に満ちた声で言うから、何も言えなくなる。
「オレはいつでもお前の事考えてるよ?」
何の報告だよ。そういうのはいらない。恥ずかしくなるだけだ。
香川の沸点がそろそろだと分かったのだろう、三田村は名残惜しそうに腕を離した。あと数秒遅ければ腹パンしてやったのに。
「……ベッドいこ?」
これがエプロン姿でなきゃもう少し格好が付くだろうに。顔だけはイケメンだから滑稽にはならないけど。悔しい事に。
「……うん」
疲れてるからもう寝たい、なんて言えない。
付き合いだしてもう一年以上経つのだ。こういう顔をしている時の三田村がどんなだか知ってる。元々ねちっこいのに、きっともう眠いからなんて言っても中々止めてくれない時の顔だ。
「香川」
三田村は先に立ち上がると、手の平を差し出してきた。エスコートのつもりか、そんな扱いは望んでない。
「……」
だけど目の前のそれを無視する事も出来ず、香川は三田村の手を取った。告白を受け入れた時からずっと分かってる。振り払う事が出来ない事は。
香川が立った後、その手はぱっと離れた。行こうというのだろう、目線だけ寄越して先にたち歩きだす。
背中に交差する紐は腰の辺りで蝶結びされている。揺れる紐の下にはトランクス。
「もっとなんかあっただろ……」
「ん?」
「パンツ」
「履かない方がよかった?」
「よくないよ、ていうか何、暑かったから?」
「それもあるけど、お前がどう反応するか見たかった、喜んでくれた?」
「……喜んでるように見えるか?」
さして広くない我が家だ、話している内に三田村の部屋の前に着いてしまった。
曖昧な笑顔を浮かべ、三田村は部屋の中へ入る。
「じゃあさ」
先に入りベッドへ腰掛け、立ったままの香川を見上げ怪しく笑う。
「脱がしてよ」
格好付けて言ってもエプロン脱がすだけだからな。エプロンだぞ。エプロン脱がすこっちの身にもなれよ。
色々突っ込みたいのに、顔の造作が良い為か、変な色気があって気圧されてしまう。
「自分で脱げ」
乗ってやるのは癪なので、香川はすげなく言ってさっさとベッドに上がった。
えー、とか何とか言った三田村は言葉とは裏腹に楽しそうに笑っていた。むかつく。
「じゃあ、脱がすのはオレの役目ね」
「……」
ころりと寝転がれば後ろから長い腕に絡め取られた。三田村が入れていたようで、エアコンは稼働中だ。ひんやりとした空気の中だと、背中の熱は心地よい。
うっかり目を瞑れば寝てしまいそうだ。
「香川」
眠気を察知したのか、三田村は気遣わしげに名前を呼んできた。まだ迷っているのかもしれない。強引なくせに結局優しいのだ。
疲れてない訳ではないし、眠くない訳ではないけど。
「脱がすんだろ?」
そう言えば腕が緩んだので、仰向けになると真上には三田村の顔。
「うん」
香川が何か言う前にその唇は塞がれた。
完
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