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2 かくしているのは
「ホント、毎日お弁当なんですね、香川くん」
「あー……そうですね、いつも作ってくれるので……」
休憩室の向かいの席に座った同僚の佐々岡が、香川の手元に視線を投げながら感心したように言った。
弁当箱の中には卵焼き、えのきのベーコン巻、茄子の味噌炒め、茄子の浅漬け、そしておにぎり。おにぎりの具は今日はおかかが入っている。
佐々岡もよく弁当を持ってきているが、今日は朝買ってきたというサンドイッチを食べていた。
「……冷食いつも入ってなくない?」
「え、あー……そうかな?そうかも?」
「友達が作ってくれるんだよなー、隣に住んでる」
休憩室に入ってきた上司の菊地が香川の弁当を覗き込みながら言う。菊地の手にはいつもの愛妻弁当の包みが握られている。
「はい」
「毎日作ってくれるんだよなー、友達」
「……なんですか、何か言いそうな顔ですね……あと別に毎日って訳じゃないし……」
菊池はどことなく不満そうな顔で言いながら、香川から一つ空けた隣の席に座る。
「別にー、あ、お前髪型変えた?」
「え?はぁ……変えたっていうか……今日後に癖付いてて、直すついでにセットしてくれたから……」
そういえば給湯室で別の部署の女子に髪型褒められたな、三田村に感謝だ。
「……友達が?」
「はぁ……」
「……最近シャツとかネクタイとかセンスいいなぁって思ってたんですけど……もしかして、その……それもお友達ですか?」
女子は制服がある。佐々岡も他の女子と同じ白地のブラウスに紺色の制服を着ていた。
「あ、うん、えっと……そ、そう?オレ、センスとかよく分かんなくて言われるままに朝着て来ちゃうんだけど……」
「香川くん、最近カラーシャツとかよく着てくるから、彼女かなって」
「えっ、違うよ!彼女いないし」
「……そうなんですか?」
「そうみたいなんだよ」
「なんで二人で会話するんですか……」
自分で言っていて友達というより、おかんみたいな世話の焼き方だ。ちょっと友達に頼りすぎだと思われているだろうか、それは恥ずかしい。
「随分よくしてくれるなー、その友達」
「そうですね……ホント、自分も仕事あるのに弁当作ったり夕飯作ってくれたり……」
「一緒に食ってるのか?」
「毎日じゃないですけど……」
「……」
佐々岡と菊地が何か言いたげに顔を見合わせた。
「何ですか……」
「別に……」
「佐々岡さんまで、菊池さんと同じような顔しないで下さいよ……」
「いえ、別に……それじゃあ、ごちそうさまでした」
「……?」
まだ佐々岡は食べ終わってもいないし、何もごちそうなんてしてないのに。不思議に思う香川だった。
***
「弁当ありがとう」
「どういたしまして」
いつもの遣り取りの後、香川が何か言いたげな顔でいるので三田村は気になり、どうしたのか尋ねた。
「えっと……別に……なんでもない」
何でもないという割に、香川はずっと何か言いたそうにこちらを見ている。これではいつもと逆だ。
身長差は十数センチ、もっと近ければキス出来るのに。そういう仲じゃないけど。
弁当箱の入った紙袋を受け取り、炬燵へ腰を下ろす香川の背中を盗み見る。
いつものようにテーブルの上にあるテレビのリモコンに手を伸ばし、適当にザッピングした後それが見たかったのかは分からないけれど、お笑い芸人がMCのバラエティー番組を見始めた。
三田村は気になりはしたが、そのままにして夕飯の支度の続きに取り掛かった。
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