2 かくしているのは

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「お前、弁当に冷凍食品使わないよな」 「は?」 「いや、なんか……いつも作ってくれてて大変じゃないのかなって……」  今日の夕飯は豚肉のしょうが焼き、白菜と油揚げの味噌汁、白菜の浅漬け、ピーマンの塩昆布合え。明日の弁当にはしょうが焼き、白菜の浅漬け、あとは朝食に食べる卵焼き。冷食の入る隙間はないのだ。それに。 「冷食使わないのは単に冷凍庫に入らないだけなんだけど……ていうか、冷食自体は結構使ってるよ、野菜とか餃子とか、一人の時は炒飯とかも冷食の食べるよ」 「そうなんだ」 「おかず系はなー……あんまり。弁当、大体夕飯のおかず詰めるだけだし、冷食買って余計な出費出したくないし……」  単身者向けの2ドア冷蔵庫はおかず用の冷食を入れておける余裕はない。それこそ餃子とか一人で食べる時用の炒飯、ピラフやパスタも入っているし、野菜とかご飯とか色々入れたいのだ。  全部のおかずを手作りしていると言っても夕飯のおかず詰めて、朝は卵焼き位だし大して手間ではない。それに毎日、という訳でもない。繁忙期や残業のある時は弁当だけでなく、一緒に夕飯だって食べない。  弁当を作らない香川には、作っている方が手間が掛かると思われているのかもだが。冷食=時短は分かるが手抜きでも手間が掛からない訳ではないし、金もかかるのだ。 「うーん、そっか」 「冷食ぽいおかず食べたい?唐揚げとかか……?揚げ物はやらないからなー」 「んー、でも唐揚げは弁当じゃなくても食べられるし……むしろ揚げたて食べたい」 「だよなぁ……オレもコロッケとかの揚げ物はたまに食いたくなってスーパーで買う」 「わかる、オレも一人の時に食べてる」  大学からの友達。同じ学部で、隣の部屋に住んでいる香川がこの部屋で夕飯を食べるようになってそろそろ4年が経つ。  大学2年の時、バイト先で教わったレシピで自炊するようになり、誰かに食べてもらいたくて隣に住む香川を誘った。 「美味しい」って笑ってくれる香川をもっと見ていたいと思ったのは、それが恋だと自覚したのはいつからか。もうよく覚えていない。 「ご飯おかわりする?」  香川の茶碗の中はあと一口程になっているので、声を掛ける。 「うん、ありがと」  炬燵から抜け出て茶碗を受け取り、自分の分と一緒におかわりをよそる。  戻ると待っていたのか、香川がこちらを見ていたい。 「はい」 「うん、ありがとう」  はにかみながら香川が笑う。  どこにでもいる平凡なサラリーマンだ。  自室に戻らず直接来たので、スーツ姿のまま。コートとマフラーはカーペットの端に丸めて置いてある。朝出掛けたのと同じ格好だ。  今朝、頭の後の髪に寝癖が付いていたので直すついでに髪をセットしてやった。セットといってもたいした事はしてない。分け目を変え整髪料で整えただけ。いつものもさっとした印象が少しだけ変わる。  ネクタイはこっちがいいよって弁当を渡すついでに選んだ。  まるで彼女のような振る舞いだ。自分でも友達にここまでするのかと思う、むしろ香川はどう思っているのか。慣れきってしまい何も感じないのかもしれないし、世話焼き体質だと思われているだけかもしれない。それは香川に対してだけなのに。 「今日さ」 「ん?」 口の中のものを飲み込んでから香川が口を開く。
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