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「堅い」「無愛想」は澪にとってコンプレックス。だが、治そうにも治せない。最近ではこれが自分だと受け入れていたが、仕事に支障をきたすとなれば大問題だ。
「申し訳ありません。不快な思いをさせてしまって」
「いや、別に不快ではない。ただ、俺は君との距離を詰めたいと思ってる」
「え?」
「いつまでも他人行儀じゃいい仕事もできないだろう」
「は、はい。おっしゃる通りです」
匠馬は、行った先々で「心の通った仕事をしろ」と従業員たちにげきを飛ばす。それと同じで、澪とも心を通わせたいと思っているのだろう。
そうじゃないと同じ場所は目指せない。匠馬が言っていることは正しいし、理解できる。
「俺が秘書に求めているのはご機嫌取りでも、便利な部下でもない。本音でぶつかりあえるパートナーでいてほしい。ただそれだけだ。今のままでは本当のパートナーとはいえない。そうだろ?」
「……そう、かもしれません」
「この際堅くてもかまわない。だが、まずはお互いのことを知ることから始めよう。俺はもっと君のことが知りたい」
視線だけ向けられドキッとする。秘書として、ということはわかっているのに、迂闊にも胸が跳ねてしまった。
「心配しなくても、俺は君がやってくれているファイリングを気に入ってる。それに、秘書を付けると決めた限り、途中で放り出すようなことはしない。だからあまり力まないでほしい」
匠馬の言葉には、いつも迷いがない。しかもここ二週間で澪が散々考えていたことを、見抜いている。自分はいらないのではと、何度考えたことか。そのせいで匠馬の言う通り、力みすぎていたかもしれない。
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