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「とにかく、そういうことだ。覚えておいてくれ」
匠馬はよく人を見ている。それは元々の性格からなのか、社長という役職からなのかわからないが、澪は匠馬の印象が変わりつつある。もっと傲慢で、冷たい人かと思っていたのだ。
なにせ病室にきたとき、匠馬は開口一番に「あとは俺が引き継ぐ。親父はさっさと隠居しろ」と言い放ったのだ。その場にいた重役や匠馬の母は、病人にかける言葉ではないと、絶句していた。
けれど今思うと、治療に専念してほしいという、匠馬なりの優しさだったのだろう。そういう面では、ちょっと不器用なのかもしれない。
澪は温かい肉まんも相まって、思わずふふっと笑みがこぼれた。
「はい、わかりました。ありがとうございます、社長」
そう答えれば、匠馬は髪をかき上げながら、ボソッと何かつぶやいていた。
「なんだ、可愛く笑えるじゃないか」
「え?」
うまく聞き取れず、首を傾げる。だが匠馬は「なんでもない」と言って車を発進させた。
(なんと言ったのだろう)
何にせよ、手を貸すと言われても、この先匠馬を頼ることはないだろう。
だって、澪と匠馬はただの上司と部下。社長と秘書だ。それ以上のことが、あるはずない、と……。
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