第一章

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澪はこれまで、一人前の秘書になるために、努力を惜しまなかった。仕事終わりや休みの日にはセミナーや勉強会にも参加し、社長の役に立てるよう必死に努力してきた。そのおかげで仕事には無駄がなく適格。 そんな有能な秘書を、匠馬のわがままで異動させるわけにはいかないと、幸之助のアシストによって社長秘書の続投が決まったのだ。 幸之助は匠馬の父で、病気を理由に今回社長職を退くことになった。その息子である匠馬はまだ33歳と若く、株主からは心配の声もあがっていたが、そんな声にも物ともせず、今回の交代を当たり前のように引き受けた。 本郷グループはホテル経営で成功し、今ではホテル業界のトップに君臨する一流企業。大手高級ホテルチェーンを経営し、最近ではリゾート開発にも着手した。日本で本郷グループを知らない人間は恐らくいないだろう。 匠馬は常に自信に溢れ、年齢以上の貫禄を放っている。それはきっと、今までアメリカで修行してきたことが大きいだろう。 幸之助が倒れたとき、匠馬はアメリカから緊急帰国した。その時初めて、澪は匠馬に会った。身長180センチと日本人にしては珍しい長身に、意志の強い眼光。スッと通った鼻筋は異国の血筋を思わせるほど。病室内は騒然としているのにも関わらず、澪は息を切らせ現れた匠馬に、目を奪われてしまったことを今も覚えている。
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