第一章

3/18
前へ
/159ページ
次へ
「君の仕事ぶりは前社長から聞いてる」 「そうですか。なんなりとお申し付けくださいませ」 淡々と答える澪を前に匠馬は眉根に皺を寄せる。 「もっとリラックスできないのか。息が詰まるだろう」 「出来かねます。失礼に当たりますので」 まっすぐ匠馬を見つめたまま答える。そんな澪を見て、匠馬は思わずふっ、と笑ってしまった。 「アンドロイド秘書か。確かにな」 「……っ」 その発言を澪は聞き逃さなかった。そのあだ名は澪にとって心地の良い物ではない。 昔から澪は愛想がないと言われ続けてきた。精いっぱい笑っているつもりでも「アンドロイド」「お地蔵様」「ロボット」などと揶揄され、ある日を境に、愛想笑いをすることをやめた。何をしてもそう言われるのだったら、しない方がましだと思ったのだ。 そのせいで恋愛経験はなく、いまだ処女。田舎に住む母、光江には早く結婚して孫の顔を見せろとせっつかれているものの、そううまくいくものでもない。
/159ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1813人が本棚に入れています
本棚に追加