第一章

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◇◇◇ 匠馬の秘書になってから二週間たった。 澪はこの日、最近オープンしたホテルの視察のために、匠馬と長野県に来ていた。 「これはこれは社長、お待ちしておりました」 ここの支配人であろう男性が低姿勢で匠馬と澪を出迎える。 「急で悪いな」 「いえ、とんでもございません」 足早にホテルへ入っていく匠馬の後に続くと、中には従業員がずらりと並んでいて、一斉に頭を下げられた。その行列を横目に匠馬は堂々たる姿で事務所へと入ってく。 この二週間でわかったことだが、匠馬は自ら足を運んで、自らの目で確かめるというやり方らしい。 そして現地で気になることがあればズバッと指摘し、スタッフにその場で直させたりもした。それはどれも目を見張る早さで適格。 前社長は指示だけして、あとは澪に任せっきりといったことも多かったが、匠馬は違う。全部自分が管理して知っていなければ、納得いかないようだった。 「神谷、次行くぞ」 「はい」 ホテルを後にしながら、端的に返事をする。このホテルの滞在時間は約一時間。そのわずかな時間で、匠馬はこのホテルの長所や弱点を、あっという見抜いてしまった。改善点は後ほどメールで総支配人に送る形となった。 視察中、従業員たちはすごく緊張しているように見えた。無理もないだろう。年齢以上の貫禄を放ち、どの行動一つをとっても、少しも無駄がないのだから。澪も匠馬の仕事ぶりには、毎度度肝をぬいた。
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