カブトムシとライオン

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ただひとつだけ大きく変わっていたことがあった。   それは庭で見つけたカブトムシのさなぎが、成虫へとその姿を変化させ、虫かごの中をガサゴゾと歩き回っていたということだ。     都会の喧騒を嫌う妻と子どもの成長のためにと、私たちは都心から大分離れた郊外の田舎町にマイホームを購入した。 朝晩あわせて5時間となる通勤時間は、それを聞くもの全てから同情の対象とされたが、当の本人である私にとってこの時間は言わば至福の時と言っても過言ではなかった。 毎朝6時代に乗り込む電車は、まるで貸切と言えるほどに乗客の姿はまばらで当然のように座席を独占してゆったりと移動が出来る。都内に近づくにつれてその乗車率は過剰状態へと変貌を遂げるが、電車に揺られるこの時間、私は好きな読書と音楽鑑賞に没頭することが出来る。 一般的な妻子を持つ社会人にとって、一日に5時間も趣味に没頭する時間を持つなんてことは、はっきり言って奇跡に等しい。 しかも私は地方公務員。 たとえ帰宅に2時間半を費やしても、午後8時には帰宅完了するのが日常なのだ……。
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