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東北の漁師町に生まれ、漁業を生業とする家族に囲まれ育った私にとって、都会という響きは憧れの対象であって他ならなかった。
生まれ育った町には信号も片手で数えられるくらいしか存在せず、コンビニなんてものにも高校生になるまで足を踏み入れることも無かった。
そんな「素朴」という言葉がしっくりくる少年だった私も、高校を卒業し進学と共に都会へとその生活の場を移行する。
今まで触れたことがない都会の空気は、瞬く間に白一色だったキャンバスを染めた。
時に黒ずんだ渋い色に、時に淫靡な雰囲気漂う不思議な色に染めた。
それは徐々に……などという生ぬるい経過ではなく、正に一瞬の出来事のようだった。
憧れは現実となり、同時に現実は私の生活から減り張りを奪い、そして惰性で時を過ごす術を与えた。
それでも、幼い頃から両親に言われ続けた言葉を忘れず、大学卒業と同時に公務員になることが出来た。
生前父はよく言っていた。
「吉行、勉強して大学へ行け。そして公務員になれ。船乗りなんて、漁師なんて博打みたいな仕事はするもんじゃない」
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