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15.辺見
それから俺はとにかく第三候補に関する情報をかき集めた。しかしどうしたことか、なかなか信憑性のある情報にたどり着かず、近づいてはやり直し、近づいてはやり直しを繰り返していた。
「くそ・・・なんで当たらないんだ?」
俺は珍しく鶯屋の事務所でPCとにらめっこしていた。史遠は今朝早くから泊まりがけの用事があって出かけた。弓道場のおやじに頼まれて出張指導の手伝いだとか。
俺の身体は腰の痛みだけでほぼ完治。公安時代ほどではないが、並の人間よりは格段に回復が早いのだ。
「おっかしいな、あんな見た目なんだ、目立つに決まってるのに・・・」
それらしき男にヒットするも、どれも明らかに違う人間ばかり。こればっかりは川崎たちが邪魔しているとは思えない。むこうだって躍起になって探しているはず。
と、PCの横で俺の携帯がぶるぶる震えだした。
非通知着信。
いつもなら出ないのだが、今日は胸騒ぎがして俺は電話に出た。
「はい、東雲」
「・・・・・・もしもし」
低くくぐもった声。どこかで聞いたような?
・・・・・・あ。
「もしかして・・・辺見さん?」
「・・・はい。ご連絡せず申し訳ありません」
「心配したよ、それで今、どこ?なんか話しづらそうだけど」
「さすがですね・・・そうなんです、ちょっと今・・・っ・・・」
辺見の後ろで、ばたばた、と足音が通り過ぎてゆく音がする。刑事ドラマばり。
「なあ、もしかして辺見さん、やばいことになってね?」
「・・・やばくない、とは言い切れませんね」
「俺、あんたと話をしたいんだよ。こっちが出向くから場所を・・・」
「場所なら、ここです」
「え?」
近くで辺見の声がした。顔を上げると、スーツこそ着ているがやつれた様子の辺見が入口にもたれ掛かるように立っていた。
俺は椅子を蹴って思わず立ち上がった。
「辺見さん!」
「すみませんが少し・・・休ませて・・・くれませんか・・・」
怪我こそしていないものの、辺見は憔悴しきっている。俺は彼を支えて中に招き入れた。
「すみません、いただきます」
ペットボトルの水を渡すと、辺見はごくごくと音をたてて半分ほどを一気に飲んだ。見かけによらずワイルドな仕草で、口のまわりを手の甲でぐいっと拭うと辺見は俺に向き直った。
「川崎から聞いていますか」
「聞いてる。辺見さん、あいつらと対立してるんだって?」
「対立・・・まあ、そうですね、そう言うのが正しいのかもしれません」
「そろそろちゃんと説明してくれ。俺は辺見さんの指示しか聞くつもりはない」
「東雲さん・・・」
「川崎たちからはオウジサマへの愛情も尊敬も感じなかった。もちろんあんたも仕事だろうけど・・・あいつらにはどうにも共感できない。あんたは本気でオウジサマを心配しているように見える」
「・・・そう言ってくださるとありがたいです。川崎たちは確かに仕事は出来ますが、外注の人間なのでそう見えたのかもしれません」
「外注?!」
「リンドール政府が雇ったのです。冷たく感じるのも無理はありません」
なんですって。
「あんにゃろ、俺を部外者扱いしやがって、自分だって・・・」
「え?」
「いや、こっちの話。それで、今なにが起こっているのか教えてくれ」
「・・・わかりました」
辺見はじっと俺の目を見つめ、息をひとつ吐き出した。
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