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23 抵抗
「メリークリスマース!」
「ばぁか、それを言うなら良いお年をだろ?」
「ええ、マジで?今日何日?」
「三十一日だっつーの!大晦日!あっ、ここで吐くなよ!」
「酒足りるかなあ」
「これだけ買ったんだから大丈夫だってぇ」
大騒ぎしながら家に辿り着いたのは二十三時過ぎだった。バーで知り合った男ふたりを俺はべろべろに酔っぱらってお持ち帰りした。
名誉のために言っておくが、いつも複数の相手をしているわけではない。年末だったから盛大に羽目を外してしまったのだ。
「国丸・・・お帰り?」
「あぁ、シオンちゃん、ただいまあ」
史遠を見た俺の連れたちはその美貌に目を丸くした。
「うおぉ、すげえ美人!え、まるちゃんの彼氏
?」
まるちゃん、というのは国丸の丸から来ている。酔っぱらっていなければぶん殴るところだ。
「か・・・彼氏・・・?」
史遠はびっくりして固まっていた。俺はそのころから史遠が可愛くて仕方がなかったのだが、それはひた隠しにしていた時期。なので無駄に明るくこう言った。
「シオンちゃんは同居人でーすっ、あ、こちら、タケシくんとイイダくん」
よろしくでーす、と二人が挨拶して、史遠もあわてて上園です、と名乗った。騒がしく俺の部屋に上がっていった二人。まだ史遠は面食らっているようで、若干我に返った俺は念のためにこう付け足した。
「ご、ごめんね、年の瀬にうるさくして・・・酒飲むだけだから安心して?」
「安心って?」
「えーっと、その・・・おっぱじめたりはしないと思うから」
最初の頃は俺の適当な言葉にいちいち首を傾げていた史遠だったが、この頃には「おっぱじめる」の意味を理解していた。
一瞬にして史遠の顔色は赤くなり、そしてすぐに白くなった。そしてぶっきらぼうに言った。
「・・・出かける」
「えっ」
「酒でも何でも、好きにしたら」
「ま、待って、史遠、なんか怒ってる?」
「怒ってない」
「いや、怒ってるよね?ごめん、あいつら帰すから・・・」
「いいってば!」
明らかにぷんぷんしている史遠の前に回り込んで俺は外に出ようとするのを阻止した。BGMはタケシくんとイイダくんの馬鹿笑い。別に好みでもなんでもなくて、たまたま意気投合しただけ。要するに俺にとって、史遠の機嫌が悪くなる方がずっと一大事なのだ。
「どいて」
「どかない!」
「ただの同居人の機嫌なんかどうだっていいだろ!」
「よくないから!ごめんってば!」
「なんで謝るの?!」
「怒ってるから!」
「怒ってないって!」
確か、はっきりと言い合いをしたのはこの時が最初だった。
史遠は俺の腕を力づくで振り払った。大晦日にコートも着ずに外に飛び出しかねない史遠を、俺はあわてて羽交い締めにした。
「離し・・・っ」
「史遠!」
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