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再会
「チート君……? チート君だよね!?」
転校生の一言で、頭のてっぺんからつま先まで一瞬にして凍り付いた。
「久しぶりチート君!! 八年ぶりだね!!」
恥ずかしいあだ名を満面の笑顔で連呼しながら駆け寄ってくるという無自覚テロによって、深刻なダメージを受けたばかりの俺のライフが更にゴリゴリと削られていく。
「うっわぁ!! まさか同じ学校でしかも同じクラスになれるなんて思わなかったよ!! 元気にしてた!?」
「あ……あぁ……」
トドメと言わんばかりに、力強く手を握られる。完全にロックオンされてしまった。
「え、チートって何? 伊勢君のあだ名?」
「まさか、名前が『市人』だから?」
「フルネームちょっといじったら『異世界チート』じゃん」
「うっわぁ……かわいそう(笑)」
「てかあの子、マジで可愛くね?」
「ズリーぞ伊勢、そんな可愛い子と知り合いなんて」
クラス中からざわめきと小さな笑い声が聞こえてくる。あと、友人からの野次も。
逃げ出したい衝動に駆られるが、目の前の笑顔がキラキラしていて、逃げ出してはいけないような気持ちにさせられる。
彼女の名前は、壇上真知子。二年生の六月半ばという、何とも中途半端な時期である今日、このクラスに転入してきた。東京からの転校生だが、厳密に言えば三年ほど東京にいて、故郷であるこの町に戻ってきたという話だ。
柔らかそうな黒髪のロングヘアと、ほど良く大きくて品のある黒い瞳は、さながら大和撫子を思わせる。声は明るく透き通っていて、これが綺麗な声なのだと実感させられるものだ。一度見たら忘れられない。それほどまでに美しい少女だった。
そんな美少女が今、ものすごく親しげに接してきているわけだが、断じて幼馴染とかではない。
家が隣同士どころか近所ですらないし、小学校も、彼女の方が進学校に通っていたので別々だ。同じ県の同じ市内に住んでいたというだけで、今日この瞬間まで同じ学年だということすら知らなかったくらいだ。
本来なら、出会うはずのない二人だった。
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