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三時間、グレアを放出し続けた馨は、いつの間にか戻ってきていた真北に肩を叩かれた。 「お疲れさま」 「真北さん・・・」 「疲れただろう。こっちへ」 「盟主はどちらに・・・?」 「自室にいらっしゃる。大丈夫だ、既に交代は終わっている」 確かに真北に触れられた瞬間、身体の力が抜けて、グレアの放出が止まった。どういう仕組みなのかはわからないが、すでに蓮見は休憩を終え、グレアの放出を再開しているのだろう。 「初めてにしてはよくやった。それにしても君のグレアは強いな」 「・・・・・・ありがとうございます」 「これは、近衛の中でも限られた者しか出来ない、重要な仕事だ。心してつとめてほしい。それから」 「はい」 「いわずもがな、だが・・・このことは他言無用で。短い時間だとはいえ、盟主以外の人間がコントロールしていることが漏れると・・・わかるな?」 いくら蓮見のグレアが強くとも、この施設の中には数百人を越えるDomがひしめいている。何かの拍子でこのことが漏れれば、盟主に取って代わろうとする者が現るとも限らない。 「・・・承知しました」 「とにかく今夜はゆっくり休め。明日は午後からでもかまわない」 「ありがとうございます」 馨は真北に会釈をして、講堂の出口に向かった。が、ふと思いつき、足を止めた。 「・・・真北さん」 「ん?」 「お伺いしてもいいですか」 「何だ?」 「盟主には・・・Subのパートナーはいらっしゃるんですか」 真北の表情が一変した。 想像通りだ。 これだけDomの力を使いまくっているのであれば、Subとのプレイがなければ、体調不良どころではないはずだ。そのあたりのデリケートなところを、馨は新人という立場を利用してぶちこんでみた。 「・・・我々が知るべきことではない」 「あれほどグレアを駆使して、盟主の体調は・・・」 「高月」 ぴしゃりと真北は制した。穏やかでいつも口元にうっすらと微笑を浮かべている真北の、もう一つの顔。 おそらくこの男が本気を出せば、馨のグレアなど話にならない。蓮見を最も近くで支える真北が、実力者であることは当然だ。いたしかたないとはいえ、あの蓮見が一時身体を預けるほどに。 「お前は新人だから、今回は見逃す。だがこれからは、無駄に詮索するようなことがあれば・・・」 その先、真北は何も言わなかった。 降格、解雇、謹慎・・・それならマシだ。 この「国」に入って、行方がわからなくなった者が多数いるのは調査済みだった。 最悪の事態が頭に過ぎるが、そもそも潜入する時点で覚悟は決まっている。 「・・・失礼しました」 馨はもう一度深く頭を下げると、大股で講堂を出た。真北の鋭い視線を背中に感じながら。
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