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それから数日後。 (かおる)はいつもの仕事をこなすため、訓練棟に向かった。 プレイルームで行われるという取引に関する情報はまだ掴めていない。毎日ひっそりと張り込んでいるが、不穏な動きもなければ、不自然な動きをしている者も見あたらなかった。巧妙に隠されているのか、それともまだ開催時期ではないのか。 とにかくいつそれが行われてもいいように、馨は日々神経を張りつめていた。 「高月」 呼び止められて振り返ると、真北(まきた)が立っていた。 正式に真北の部下となり、呼び名は「高月くん」から「高月」になった。 「はい」 「今日はここじゃない」 「え?」 「プレイルームだ」 「・・・プレイルームで訓練を?」 「そうだ。今日の訓練相手はSubだ」 「えっ・・・」 馨の驚いた顔を一瞥した真北は、うっすらと微笑むと歩き出した。 プレイルームへは、例によって倉庫から降りていく。皆がプレイのためにこの暗い通路を使っているのだと思うとぞっとする。非合法なプレイを楽しむ者たちは何を考えているのか。ゾクゾクするような背徳感か。罪の意識はないのか。 そう言えば、Subたちはプレイルームから出られないのだろうか?結局馨は未だに他の場所でSubに会うことがない。 あの日以来のプレイルーム。 相変わらずの薄暗さと、何とも言えない甘ったるい香り。前回のように今日も楽しみたい者達で賑わっていると思ったが、そうではなかった。 ベッドの上、床の上、ソファの上に思い思いの格好で横たわっているのは、Subたちばかり。プレイをするDomの姿は見当たらない。 「真北さん・・・」 「そんな不安そうな顔をするな」 「訓練というのは何をするんですか」 「ここにいるSubに、一斉にコマンドをかけてみろ」 「・・・え?」 馨は部屋中に点々としているSubたちを見回した。ざっと数えても二十人はいる。それもよく見ると、ほとんど未成年だ。 「どうした?簡単だろう」 「・・・簡単ではありません。一斉に・・・というのは・・・」 「言葉の通りだ。お前の力量ならやれる」 「でも、失敗したらSubが・・・」 「そこは気にするな。ケアはこちらでする」 「Subのケアは、プレイをしたDomの責任です」 「それは外の考え方だ。ここでは違う方法がある」 「しかし・・・」 「お前は盟主の役に立ちたかったんじゃないのか」 「・・・・・・そのとおりです」 「この仕事は、盟主が準備していらっしゃる大きな計画の基盤になる。それに携われることを誇りに思え」 「・・・はい」 基盤。これはおそらく蓮見が言っていた「オークション」に関わることだ。Subたちにコマンドをかけることがどう関わってくるのかは解らないが、今断るのは得策ではないようだ。 Subたちはうっとりと馨を見つめている。それは薬物中毒者の瞳に似ていた。馨の背筋を冷たい汗が伝う。なにかがおかしい。このSubたちは正常(ふつう)じゃない。コマンドをかけるまでもなく、何かに操られているようだ。 真北がすぐ側で馨を凝視している。 致し方なく、馨はそこにいるSubすべてに、強めのコマンドをかけた。 それが馨にとって初めてとなる、自分の意思による「プレイ」だった。
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